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<2011年 2月 8日(火)付、「文芸同人誌案内」掲示板より転載。kitaohiさんの書き込みです。>

【「雨のオクターブ・サンデー」難波田節子】文学界第第64巻第11号
「河」第155号に掲載されたこの作品は、2010年下半期同人雑誌優秀作として文学界に転載された。

 この作品を読んでまず最初に感じたのは、作者の非凡な才能である。作品の場面を日本に置き換えて読むと目新しいことは何もなく、どこにでもある話といっていい。人間の進歩、発展は作者が取り上げたようなことの集積の結果なのだ。日本の匠の世界、芸術の世界、農業の世界等々、いたるところにある。日本ばかりではない。世界中にある筈だ。作者の凄いのは、ある意味ではどこにでもある話を、イギリスを場面にし、オルガン演奏の世界の奥行きの深さを取り入れ、うまく描いたことである。

 主人公の香織は東京の音大にでピアノを勉強し、卒業後ホルンを吹いていた男と同棲するが、性格が合わず別れる。2年後ロンドンの音大に入るが、コンクールなどなどでは結果を出せず焦っているときに遭った楽天家の男と同棲をする。しかし、このような生活は香織の感性を奪ってしまうと感じ、その男から離れ、ロンドンから1時間以上もかかるこの町に移住する。この町住もうと決めたのは、ピアノを持ち込め、家賃が安いからだった。が、ピアノは、普通の住宅地では外に音が漏れるので消音にするなど気を遣わなければならない。そんなときにパイプオルガンにであい、近くのセント・フランシス教会で自由に弾かせて貰うことができるようになる。この教会でトマス・ハウエルと会う。香織が弾くパイプオルガンを毎日聞いてくれる老人だが、無口で話をすることがなかった。ある日、香織の演奏にちょっとしたヒントを与えてくれた。そのヒントで見違えるほど曲が端正になった。その後、時どき会話をするようになる。トマスから貰ったブライアン(イギリスの五指に入るオルガン奏者)のS席のチケットで演奏会を聴く。演奏が素晴らしかったことをトマスに報告すると、「ああいう演奏ができるようになれ」という。

 トマスが膵臓癌で亡くなってから、トマスはブライアンのライプツィッヒ時代の大先輩でとても尊敬していたということなど、トマスの過去を知ることになる。そればかりではない。トマスは、娘スーザンとはしっくりいっていなかったこと、スーザンには自閉症の子供と神経症の夫がいることなどを知る。トマスはスーザンに「お前には息子が2人与えられたのだと思って頑張れ」という遺言を書いていた。


 音楽の世界は、私には全く分からない。が、楽器などの演奏の技などを師が弟子などに伝える方法ははいろいろあろうが、作品のような教え方もよく理解できる。パイプオルガンの世界やイギリスの習俗などうまく取り入れた素晴らしい作品と思う。

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