文芸誌「出現」の最近のブログ記事

「出現」5号

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『海峡派』季刊文芸同人誌より転載

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創作
白夜のナイチンゲール ・・・・・ 布施院 了
ロシアの古都ノヴゴロドの、タマーラという18歳の少女が「歩く」ことにこだわり続けている。タマーラは、歩く日々の中で、白樺文書記念館に努める父と父を「お父さん」と呼ぶかつて養女だった女性と会っているのを目撃したり、ルカという絵を描く少年に告白されたり、ルカが死んだりと、わだかまりを抱えている。タマーラは不眠や食事をとれなくなってしまった。ベランダから聞こえてくる合唱隊の歌声に幻の少年の声を聞く。絵を描く少年の銅像の写真から喚起させるストーリーも、白樺文書などの創作も高レベルの質感を感じさせる。とてもおもしろかった。

シャネル七番 ・・・・・・・・・・ 武居 明
リュウとマヤは、列車でのヨーロッパ横断をしている。列車という閉鎖的な空間で繰り広げられる小さなロマンスの数々。ちょっとあやしげなヨーロピアンな雰囲気が旅心をそそる。

寄る辺 ・・・・・・・・・・・・・ 内村 和
八十過ぎのサトは過疎の村に一人暮らし。東京に住む長男和也が訪ねて来て、そろそろ施設に入らないかと勧める。サトは昔のこと、母が肺病で死に、治美が新しい継母になったこと、姉のミヨの腕に赤い爪痕が残っていたこと、結婚して出て行ったミヨは女児を残して死んだこと・・・などを思い出す。二男哲も職を変え、苦労しているが、村には戻らない。それぞれの人生を生きるしかないという諦観のようなものが伝わってくる。

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【「断片集(2)」小島義徳】
俳句を散文仕立てにしたような7編が並んでいる。
私は小説を書くとき、いくつかの場面が浮かぶ。それらは強くイメージできるのだが、その場面だけを書き連ねても作品にはならない。イメージとイメージの間をつなぐ作業を面倒に思う。そうか、こういう書き方もあったんだ。私もやってみたい誘惑に駆られるが、「では書いてごらんなさい」と言われたら、それも難しい。7編それぞれが人というものの哀しさや儚さが漂っていて、全体として同じ空気が流れている。

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「出現」2号

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「海峡派」ブログより転載

環(かん)・・・・・・・・・・・・渡辺たづ子

亡くなった祖父の部屋の整理をしていた私(環・・・たまき)が、和紙に描かれた曼荼羅のような、祖父が「環(かん)」と呼んでいたものを発見する。それこそ私(環)の名前の由来であることを思い出し、「輪をもって繋ぐ者」という意味を知る。それからは、友人のあかりが難聴だったことや家庭の境遇を打ち明けられたりすることも、弟が生まれたときの思い出なども「環」にまつわるものとして意識するようになる。何かをしなければ、という思いに駆られる。続きが楽しみな第一話。

ゴンタとバアチャン ・・・・・寺山あきの

ボク(犬)がゴンタといきなり命名され、バアチャンにもらわれてからのバアチャンとその周りの人間観察日記というところだろうか。いろいろなエピソードが楽しい。犬好きにはたまらない。中でも霊園までのバスでの出来事や、公園でリードを解かれてからバアチャンとはぐれ、おじさんにポチと呼ばれながらの数日間、そしてやっとまたバアチャンと巡り会うまでのくだりはドキドキさせられた。

遠い汽笛 ・・・・・・・・・・・・・内村 和

突然の父の事故死で、私は小学生のときに家を出て行ったままの母親のことを思い出し、探し当てる。母である占い師は、ハルキという若い見知らぬ男性と暮らしていた。母から父は私と血のつながりがないことを聞かされる。また、母の複雑な出生も。血のつながりとは何か、家族とは何かを考えさせられる重いテーマの作品。

中国東北三省旅日乗・二〇一〇年八月 
                ・・・・・ 山本直哉

作者にとっては幻ではない、確かにあった現在の満州の旅。思い出話も挟み、これはこれで非常に面白い。が、以前連載された作品(最後の2話しか読んでいないが)『ホテル・樹海』や、本になっている『満州棄民の十ヶ月』が、満州を体験した作者が語り継がなければいけないことかと思うし、読んでみたいと興味がそそられる。

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【「星は薔薇色の涙を流さない」小島義徳】
上下2段に別れ上段は創作、下段には書き進む作者の状況が語られます。「劇中劇」のような、「作中作」と言うのでしょうか、意表を突いた構成です。上下段が響き合って、併せて私小説のように読みました。下段はブログで読んでいたのですが、こうやって抜粋されると上段との同時進行が奇妙な感覚を呼び起こします。小説を書くとき、そう、こうやってイメージを膨らませるな、自分の感覚をこうやって表現に結びつけるな、など生生しく感じました。共感しながらどんどん読み進み、やがて身につまされる思いでした。上段の緊張感と、「わたし」の繊細な感性が印象的です。

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2013年5月

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