『海峡派』季刊文芸同人誌より転載
創作
白夜のナイチンゲール ・・・・・ 布施院 了
ロシアの古都ノヴゴロドの、タマーラという18歳の少女が「歩く」ことにこだわり続けている。タマーラは、歩く日々の中で、白樺文書記念館に努める父と父を「お父さん」と呼ぶかつて養女だった女性と会っているのを目撃したり、ルカという絵を描く少年に告白されたり、ルカが死んだりと、わだかまりを抱えている。タマーラは不眠や食事をとれなくなってしまった。ベランダから聞こえてくる合唱隊の歌声に幻の少年の声を聞く。絵を描く少年の銅像の写真から喚起させるストーリーも、白樺文書などの創作も高レベルの質感を感じさせる。とてもおもしろかった。
シャネル七番 ・・・・・・・・・・ 武居 明
リュウとマヤは、列車でのヨーロッパ横断をしている。列車という閉鎖的な空間で繰り広げられる小さなロマンスの数々。ちょっとあやしげなヨーロピアンな雰囲気が旅心をそそる。
寄る辺 ・・・・・・・・・・・・・ 内村 和
八十過ぎのサトは過疎の村に一人暮らし。東京に住む長男和也が訪ねて来て、そろそろ施設に入らないかと勧める。サトは昔のこと、母が肺病で死に、治美が新しい継母になったこと、姉のミヨの腕に赤い爪痕が残っていたこと、結婚して出て行ったミヨは女児を残して死んだこと・・・などを思い出す。二男哲も職を変え、苦労しているが、村には戻らない。それぞれの人生を生きるしかないという諦観のようなものが伝わってくる。
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