メタセコイアの最近のブログ記事

2018年2月 3日 (土)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「町」マチ晶】
 ストーリのない散文で、書き手は住んでいる町の中心部に行ったことがない。見知らぬ町をゆくように観察しながら彷徨する行程を描く幻想小説。静まった町の風景に非実在的な女性が登場。短い割には自らのイメージを追想する描写などは、時間をかけて書いたように思える。不安と憧れ、愛とロマンの世界。統一性に欠ける面があるが、文学性の高い作品に読めた。
【「足跡」北堀在果】
 記憶によれば、インドにルージュという名僧がいて、彼は若い頃には透明人間になって、女性の館に忍び込んだ経験がある。後に、空と中観の心の領域を説く人になったという印度説話があったような気がする。それが日本では、龍樹菩薩といわれるようになったのだろうか。話は薬を飲んで透明人間になって、女性にいたずらをするが、ついには、ばれてしまうというもの。その人が龍樹菩薩になる前の話である。
 末尾に「今昔物語」巻四第四十四「龍樹俗時作隠薬語」との引用であることが記されている。
【「あなたもそこにいたのか」和泉真矢子】
  夫婦間に子供ができないが、欲しい妻。不妊治療専門医に通う。夫の協力が欠かせない。夫は、形ばかりで、身を入れて協力をしない。女性の立場から、その悩みを巡って、女性の立場からの真理と行動を描く。話は想像妊娠現象に及ぶのだが、終わりは自己憐憫の涙を流して、生活への意欲を取り戻す。不妊治療をする女性の心理がどれほど辛いものかを描いて良いのだが、娯楽小説にするには、ストーり―的な面白がらせの要素は薄い。純文学にするには、語りの感覚が軽い。これは、作者の問題と云うより、文芸世界の現象が複雑化しており、方向性を作者が捉えきれていないためのものだと思える。書き続けることで、道が開けることを期待したい。
【「あおい鳥」よしむら杏】
 結婚して、15年の夫婦。ペットを飼っている。妻の史華は、ときどき「お不安さま」と称する不安症状が起きる。ここの設定が大変面白い。と、思ったら、具体的な事例が、分かりやすく、平凡。有澤家の子供も登場するが、その位置づけの意味が単純。夫が無精子症とわかるが、「ま、いいか」という感じ。問題提起になる素材を並べながら、それほどこだわらないで、幸せな日常。この段階では、風俗小説の範囲。時代の現状を良く表していることは確かだが。
【「痲保良」櫻小路閑】
 大学准教授の大堂は、地球温暖化の研究者である。彼の講演を澤渡という男が、熱心に聴講している。
 その彼の話を聞く大堂。澤渡は、事業で大儲けをした資産家。「痲保良」という地区を買い取り理想郷を、建設する話をする。作品のポイントとしては、澤渡の話が主体で、彼の独白を、大堂が受け止めるという形式。語り手から長話を聴くという間接的な手法をどういう形式でするか、というところが工夫のいるところ。内容は、現在の日本社会の現状と国民性への批判があるように読める。
 ここでは、合間に料理に注文を入れるということで、場を持たせている。そこが面白かった。
発行所=〒546?0033大阪府東住吉区南田辺2?5?1、多田方、メタセコイアの会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

カテゴリー:メタセコイア

2015年11月13日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 今号は先号のライフスタイル小説集のような傾向に対し、純文学的精神に触っている感触の創作がいくつかあった。
【「神の水溜り」水上ヤスコ】
 印象を先にいうと、深読みの可能な良質な小説である。精一という男が、一人暮らしをしている伯母の民江を訪ねる。民江は、新興宗教の教祖的な霊媒体質をもっていて、ある事件を起こしている。近所からの異変通報で、民江と同居していた叔父と従姉弟の雪枝が白装束のまま餓死しており、民江が衰弱したまま、そこで倒れていた。警察は責任能力をとえないとして、彼女を釈放する。 その間に精一と民江の関係、近所付き合いのこまごまとした逸話がある。自己表現中心的で、作品的には説明不足。よく原因はわかないが、人的な災害かなにかで民江が死んでいるのを発見して終わる。このような終わり方ならば、前半部からもっと緊張感をもたせた書き方が適当に思えるが、そうでないところが関西風なのであろう。そうした不完全性とは別に、民衆の生と死、新興宗教、高齢者、災害と、日本の現代の縮図のような雰囲気をよく描き出している。寓意性を持たせるという視線があれば、もっとまとまりのある作品になったのではないだろうか。
【「鉄路の先に」櫻小路閑】
 これもかなり面白い。語り手の「僕」は、区役所の職員で、決まりきった仕事のなかで、意欲的でない仕事ぶりをしている。内密に各種資格試験をとって、次の事態の変化に備えてはいる。時刻表と首っ引きで、鉄道乗りを楽しむ。僕の愛読書は、ドストエフスキーである。日常生活の単調な暮らしのなかへ、異常な非日常性の物語をぶち込む体質のドストエフスキーを読む。ドストエフスキー日常性への憎悪の裏返しとして、平穏な生活者の私がそれを皮肉っている意味にも受け取れる。ほんとうは人間の社会性への、批判的な凄みをもつ精神があると思わせるのだが、引きこもり的な、さりげない表現なのは、やはり関西風なのか。
【「がんもどき」多田正明】
 70歳を超えて、胃がんになって手術する。それまでの経過と、その後の身体の状況を、実に手際よく整理して書いている。そうなのかと、読んで役立つ手記風物語である。なにがあってもおかしくない年代層の手術や抗がん剤治療への疑問を持ちながら、周囲との流れで、手術し胃を摘出する。その経過が冷静に記録されている。高齢者にはおすすめの一文である。
 〒546?0033大阪市東住吉区南田辺2?5?1、多田方。メタセコイアの会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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「メタセコイア」12号

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2015年10月17日 (土)(*)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

☆「メタセコイア」(大阪市東住吉区南田辺2?5?1 多田正明)・メタセコイア同人会
 先ず「メタセコイア」。大阪文学学校の岡チューターの元に生徒が集まり作り上げたという事です。
編集後記が面白い。ここに十枚と言ったのがここ、二十枚と聞いたとの問答が挙げられている。
日本語・句読点の問題に立ち入り最後に若い人のメールにも句読点が無いと結んでいる。
昨年の11号は【三田文学】と【文芸同志会通信】が作品評を出したと全文紹介している。
128頁だが美装重厚な見栄えは手に取りたくなる。頒価千円も気負いが見えて好感を持った。

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2014年12月17日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 今号は作品の文体に共通性と視点が似たようなポジションのものが多い感じがした。良し悪しの問題ではないが、おそらく、生活密着型世間話から離れないスタイルを好む読者を想定しているのかなと思った。息が合っている。生活環境描写などの各作品のページを切り取って、コラージュにしたら案外物白い抽象小説ができるかもしれない。その意味で今号の全体が合同作品に思える。
【「あさつゆ」堅田理恵】
  癌を患って入院しているケイ。院内には、命の限りを悟って、静かに病人仲間にお大事に声をかける人もいる。ケイの娘は高校生で命に限りがあることを実感できず、母親の心理も理解しないでいる。死を前にして心残りの情に内向するケイは、この世の本当のものを理解することを欲する。思考は壁に当たりどうどうめぐりして、ついには笑いが出てくる。理屈っぽいところがあるが、作者の生きることを求める情念の表現が、りニヒリズムの光と影と戦いの記録として迫っている。
【「丘の上のクリーニング店」芹沢ゆん】
 クリーニング業の顧客の様子を通して、かつての活気のを失った多摩ニュータウンの寂れゆく姿が描かれる。日本のどこにでもある社会現象を生活記録的に描く。それでも日々の生活の彩りをみつけてゆく、屈託のなさが楽しい。
 ほかの作品も紹介していくときりがないが、文章技術的には全体位落ち着きがあるのはいい。しかし、そうするとリズム感とか、生命感とか読む楽しみ味が減殺されてしまうと思う。読者との対話を楽しむような気分を付加すると、書いたほうも満足感が増すのではないだろうか。「あさつゆ」に代表されるように作者は手応えがあるでしょう。読者は「理屈ではそうでしょうな」という以上の感慨は持てないところがある。
発行所=〒546?0033大阪市東住吉南田辺2?5?1、多田方。メタセコイヤの会。
紹介者「詩人回廊」北一郎。

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【「蜘蛛」楡久子】
慶子は48歳の主婦。同い年の夫、高校3年の息子、間もなく92歳になる義父との4人暮らしです。3年前から夕方2時間、ケアハウスでパートもしています。嫁いでから自分なりに心の遣り繰りをして婚家に合わせてきました。それなのに誰からも必要とされていないような疎外感があり、日常の些細な事で気持ちを立て直して毎日を過ごしています。今どきこんな主婦がいるのだろうか、と首を傾げたけれど、読み終わって納得しました。普通の主婦といえばそれまでですが、その日常感覚や生き方に同調しました。個人的なことですが、私はよく「何故こんなに雑多な事が起こるんだろう。他の人はいったいどうやって切り抜けているんだろう」と思います。やっぱり、みんなそれぞれに工夫してなんとか切り抜けているんだ、と思わせる細部に説得力があります。最後の一文が、不器用ながらも誠実な主人公の哀しさを表しています。

【「ラ・メール」芹沢ゆん】
29歳のOL、栞は転職とともに独り暮らしを始め、喫茶店「ラ・メール」のマダムと知り合うことで成長してゆく、自分探しの物語です。カリグラフィーや蔵書票について詳しく語られています。母親の人生や個人史を綴るM・Mさんの状況も説得力があります。そのため主人公の渇望感の方が薄まった感じで、少しバランスが悪いように思いました。いろんなものを並列に盛り込みすぎている気がしました。

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