屋上の最近のブログ記事

 「屋上」に仁木氏は3編の作品を同時に載せている。1作目「亮ちゃん」については以前このブログに書いた。ホームレスの中に、昔の親友に似た人物を見つけ、その親友との交友の経緯を書いたしみじみとした作品だった。
 二編目の「老木」は、古城に沿う国道の中央分離帯に取り残された欅の老木に宿る木の精と、そのその北東2百メートルばかり離れた古井戸に住む水の精との対話によって構成されている。その対話を仲立ちするのは、老木と古井戸を行き来する鳥たちだ。古木は六百年も生きている。従って、話題は六百年に及ぶ。
 話は、まず武田信玄が子の地に来た頃から始まる。その頃信玄びは勢いがあり三方が原の戦い(元亀3案年・1572年)では家康は武田の騎馬武者に蹴散らかされた。信玄の時代から百年ばかりくだり、義民中萱加助らによる、貞享義民による百姓一揆の話題になる。地獄絵、阿鼻叫喚の世界が繰り広げられる。加助から2百年隔てて、俄かに賑やかであわただしい時代がやってくる。明治中期、ベルリンからウラジオストックまで1年4ヶ月かけて単騎シベリヤ横断した、軍人、福島安正の話。渡辺春子、後に鳩山春子となり、夫を衆議院議長、息子を首相にまで引き上げ、自らは女子大の創設にかかわる。沢柳政太郎は、、文部次官のあと、京大総長を勤め、大正自由主義教育の中心的役割を担う。社会運動家、作家、弁護士だった木下尚江は、足利鉱毒問題、廃娼問題、普選運動に関わり、天皇制を批判し、日露問題では非戦論を唱えた。
 水の精は木の精に意見を求める。
 「信玄、加助、それにご一新のあとの安正、春子、政太郎、尚江。御神木にその名と大願を刻み込んだ彼らには、きっと何か共通するものがあったように思うんです。----」
 そしてそれはもしかすると、〈愛〉という言葉ではなかったでしょうか。水の精がそう言おうとしたとき、欅の精は遮った。曾孫、鳩山由紀夫現総理が<友愛>を唱える前にこの作品は書かれている。
 「---信玄、加助、御一新の後の者たち、彼らによって継承されてきた何かがあって、それを最後に実現する人物が現れるというようなドラマチックなことはないのです。---」現実を言い当てている言葉に思える。
 最後に、欅の精は水の精に、加助騒動の顛末をこれからも伝えていって欲しいと頼む。
 その夜、古城の庭園では夜桜会が開かれる。そのとき水の精に30年後あたりに、フォッサマグナが活動を開始し
震度8以上の地震が来るという情報がもたらされる。
 欅の精は、また人災、天災の違いはあるが、あの地獄絵、阿鼻叫喚を目にすることを思うが、今夜は、人間の桜樹を愛でる宴に耳を澄ます事にする。
 この作品は、600年と言う時間の流れをたどる一つの松本城物語だと思う。

                           転載。原文は金児至誠堂より

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2013年5月

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