九州文学の最近のブログ記事

今号は、すばらしいことに、「新鋭創作特集」の5作が掲載されている。40歳代が1人、4人が19歳から30歳までの人たちです。
作品の内容も若い感覚で、しかも読み応えがあります。今後の活躍も大いに期待できます

新鋭創作特集
裸婦の絵 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・濱松伸作
優秀で何をとっても私より造詣が深い大学の友人、佐藤の部屋には、裸婦の絵が飾ってあった。ある日、一人で佐藤の部屋で待っているとき、大学ノートに少年の記憶」と題する手記を悪いと思いつつ読んだ。手記は、いじめられていた少年、体と心を病んだ母、家のことを引き受ける姉、不義の父など、佐藤自身のことと思われる内容だった。それ以来、佐藤とは疎遠になっている。
佐藤が不義の父の血も自分に流れていることを持て余す苦い感情が、手記を通してよく伝わった。また、佐藤を窺い知ったにもかかわらず、佐藤の理解者とはならなかった私の心情も懐かしさを伴って伝わってくる。

正常の倒立 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・田井英祐
幼いときに両親を精神異常者に殺された十代後半の青年は、二重人格か何かにより精神病院に入院している。青年は自我を喪失し、今ではほぼA博士そのものになっている。病院で、凶悪犯であるW公爵と正常と異常をひっくり返すという革命を起こそうとする。それも副院長と看護師を殺し、二人の人肉を食べるという行為によって。
正常と異常の境界について、そもそも境界などあるのか、考えさせられる。また、人を殺し、食べるという異常を極めている行為の是非を超えた精神世界の知識や想像も個性的で、今後の作品も楽しみだ。

地蔵の絆 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・林由佳莉
祖母は近くの地蔵様の掃除を毎日していた。そんなことをして何の得になるのか、と和子は思うことがあったが、地蔵様に手作りのよだれかけを毎日取り替える人もいることに背中を押され、祖母が亡くなった後、掃除を引き継ぐ。ある日、よだれかけを作っている本人が、小学6年の少年と知る。祖母に教わった折り紙を少年の妹に教えることに。
地蔵様を通じて、人とのめぐり合わせがあり、意味のなさそうなことも続けることの大事さや、どこかで誰かに影響を与えているかもしれないという灯がともるような作品。和子や叔父の心に変化があらわれるラストもいい。

臭う檸檬 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・森田高志
健一は父と車に乗っていて、老婆を渡らせようと止まることで、老婆は後続のトラックにひかれて死んだ。その罪悪感で健一は予備校に一年行けなくなる。その間に、電車で会う紳士との交流があったり、父は父なりに罪の償いをしていることを知る。一年かけて、ようやく老婆のところにお参りに行けた。
罪悪感から来るいろいろな神経症や、心が回復していく過程で、「檸檬」やにんにくの臭いなどのこだわりが論理的に解きほぐされていくところなど、よく描かれている。

蜜柑 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黒瀬章
食べるためにデータ入力の仕事をする私の前の机の男性が、入社二週間目に死んだ。管理者の爺さんは、男性の机の上に蜜柑を置いた。それからまもなく、家の近くで遊んだこともある受験生がガス自殺した。重なる死に、私は自分の死を想像し、遺書を書く。その後、四十台の女性に恋をし、死んだ男性の机の上に置かれたまま萎びかかった蜜柑を女性に差し出す。その蜜柑を拒否され、恋が終る。
行き場をなくした蜜柑は、死んだ男性であり、恋に破れた私であろう。蜜柑を題材に生や死を捉える視点が興味深い。

               ブログ「海峡派」より転載

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ブログ「海峡派」から許諾を得て転載します。


新しい『九州文学』が届いた。

先日の日記で書きましたが、まずは、第4回富士正晴全国同人雑誌(大賞)受賞 おめでとうございます。

小説
水晶川 ・・・三東崇昇
村がダムに沈むという小説はいろいろあるが、少年の僕を通して物語は進む。ダム建設の作業員である老石工が、発破で出てきた水晶の詰まった切片を僕にくれる。それを体の弱い従妹の比奈子にあげると、とても喜ぶ。もっと大きな水晶が出たら、あげようという石工の言葉に、比奈子をもっと喜ばせてあげられると、発破のたびに心躍らせ、尋ねるのだが、そう簡単には出ない。やっと大きな水晶が出てきたときには、比奈子は死んでしまっていた。
ダム建設の描写、山の景色や鳥の鳴き声、実に生き生きと描かれている。石工や比奈子だけでなく、僕の周りの人々、大桜を楽しみにして幻影を見ながら亡くなる祖母やかわいがってくれていた祖父のこと、京子さん、比奈子の亡くなる前に生まれた剛のことなど、豊かな交流がていねいに描かれている。

青いマスカラ ・・・蘇芳環
山陰から博多の都会のデザイン学校に入学したわたしは、晴絵にコンパに誘われる。そこで出会った青いマスカラのハーフの女性に惹きつけられる。忘れられずに、青いマスカラを探し求める。そして、バイト先の店に現れたのが青いマスカラのレナさん。彼女は奇遇にもそのビルの一室にすんでいた。晴絵の彼からバイクで山陰ツーリングに誘われ、断るが、半ば強引に話を進められ、その彼は下見の途中で事故を起こす。事故がわたしせいだと晴絵に責められる。茫然としているわたしをレナさんが助けてくれ、打ち明け話を聞く。そして夢を掴もう、と。
わたしという一人の学生時代の勉強、バイト、友達、恋人、いろいろな出会いと別れ、苦悩が切なく描かれている。青いマスカラも効いている。

ザコ専門? ・・・浜元良平
?というからには、?、?があり、その続きなのだろうか。印刷所経営の耕介と、幼友達で、役所を定年後、足を怪我して杖をついている勇三との軽妙な掛け合いが面白い。ザコというのは釣りでのザコのこと。釣りの描写が克明。

風子は大学生 ・・・城山東子
風子は、独身で、30年どうにか勤めを終え、人生を振り返る。あのとき、どうして大学に行かなかったか、と悔やむ。ちょうど、月子という友人が、息子と一緒に大学受験をするという話にのり、一念発起し、受験勉強をする。第一志望はダメだったが、晴れて60歳で大学生。勉強も経済的なことも大変だが、学びたいことはたくさんあると再確認する。
人生を前向きに進む強さに心打たれる。その強さは、離れに住むちゃらんぽらんな兄をぎりぎりのところで見捨てぬ優しさをも持ち合わせている。タイトルはどうだったろうか?

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330ページはある、分厚い同人誌だ 同人も100名近い
今号は、堀勇蔵氏の追悼特集でもある。堀氏とある友人のことを書かれた西田秀樹さんの追悼文に、存じていないものの、堀氏や大江君のことを思わずにいられなかった。

堀氏は、『去年、国道3号線で』で、直木賞候補にノミネートされた方です。ご冥福をお祈りいたします。
         ...... (海峡派waka)

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【「赤い花」山下濶子】
かわいそうだと思って親切にしたら相手の要求が増大し、追い詰められてゆくことがある。そこのところが説得力のある展開で語られている。「そうだ、そうだ」と肯きながら読み進んだ。サスペンスタッチで飽きさせない。

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「どくだみ」波佐間義之
(この作品は全国同人雑誌優秀作として「文芸思潮」第29号にも掲載されています。)
正直に言わせてもらえば、読み始めて「今の時代に、こんなカップルいるのかねえ」と思った。しかしそれは、女性が抱える暗部の伏線だった。読み進むにつれて、「いるのかねえ」から、「もし私だったら」になった。作品はカネミ油症二世の女性と青年の恋愛物語で、青年の視点で語られる。悲劇的な最後だが、読後感は爽やかだ。
九州で生活していると、「公害」は身近である。石牟礼道子さんの『苦海浄土』は水俣病を被害者の目線で生々しく描き出した。カネミ油症も発生当時は知り合いがライスオイルを食べていたりして、話題になった。しかし、それはどこか他人事という気がしていた。知ってはいても、実感しないまま通り過ぎてしまったものがたくさんある。そんなものを実感させることも、創作のひとつの力だ。

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2013年5月

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