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「前夜?北京・二〇〇七年 晩秋?」
主人公、藍子は北京在住の礼子を訪ね、河南省の開封へも足をのばして以前つき合っていた男性と再会する。別れた事情など、藍子のこれまでの生活が巧みに盛り込まれている。観光客では知り得ない北京での生活や地方都市の様子が細かく描写されていて、興味深く読んだ。しかし、あまりにスムーズで、登場人物も良い人ばかり。オリンピックの準備が急ピッチで進む北京も、急激な経済成長の中にある地方都市も報告的に描かれている。未知の物や事態に遭遇した時の違和や嫌悪がもっと書き込まれていたら、作品の印象が更に鮮明になったのではないだろうか。人間だもの、棘もあっていいと思う。

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7編の短編と100枚を越す作品1編が掲載されています。こんな言い方は失礼なのですが、読み始めて「どこがで読んだような設定だ」と思いました。しかし読み進むうちに、まったく違う新鮮さを感じて小説世界に浸りました。

【「ひらめの身」町田蛍夏】
近所の人たちが集まる飲み屋で顔を合わせる、「たっちゃん」と呼ばれる男性がいる。たっちゃんはもつ焼屋を営んでおり、主人公はそこにも顔を出したことがあるが印象が薄い。母からたっちゃんの死を知らされるが、主人公にとっては今ひとつ実感がない。お通夜帰りの両親に誘われて飲み屋に行くと、喪服姿の近所の人たちが集まって来る。そこでの遣り取りのなか、主人公はたっちゃんの死を実感してゆく。客のひとりが釣り上げた大きな平目を持って訪れ、店の主人がさばく様を通して語られる生と死の感触が説得力がある。

【「風橋の家」小祝いるま】
故郷の雪深い村で過ごした子ども時代の回想。貧しく過酷な村の暮らしが語られ、当時の共同体の有り様も克明に描かれている。悲劇にさらされる女性の美しさが、一層の哀しみを誘う。雪国の描写もうっとりするような文章で書かれている。貧しく不自由で、他人の目を意識しなければならない社会が書かれているが、そこは静かで美しい。

【「鏡」荒木桂】
不思議な感触の作品です。非現実的な事や空想の世界を描いてはいないのに、私の周りとは空気感が違います。それでいて、とてもリアルな感じが伝わってきます。人の温もりがじんわり染みてくるようで、大好きな作品です。

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2013年5月

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