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「海」86号(三重県いなべ市)

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2012年12月 5日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌には感想を書くための編集部宛先の私製はがきが挟んである。一つの方策ではある。同人雑誌の作者は、一人の読者が心を動かしてくれたら、それでいいというような気持で書ける場所でもある。もしかしたら自分を理解してくれる人がどこかにいるかも知れない、その人を求めて書こうという動機であれば、それはロマンである。
【「春風の人 人見幸次」国府正昭】
本誌の編集発行者であった人見幸次氏が70歳で亡くなって、友人の国府氏による作品解説と、人生のかかわり合いと回顧である。これを読むと執筆に根拠があるものを書いていて、デザイン創作など多彩に活躍した作家であったようだ。年譜もあって、後日に大変貴重な資料になるかも知れない。四日市市であるというから、作家・伊藤桂一氏とも面識があったかも知れない。ものを書く人の人生は有名であろうが、地域的な作家であろうが、その活躍の足跡には大変興味深いものがある。実生活のディテールの上に作品が重なる様子が、外側から見えるのは小説以上の感銘があるからだ。
発行所=〒511?0284いなべ市大安町梅戸2321?1、遠藤方。
(紹介者「詩人回廊」伊藤昭一)

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2011年11月11日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「昨日こそ」紺谷猛】
 主人公は、兼業農家であるが、周囲の農家が農業をやっていられなくて、田畑の維持を頼まれてしまう。頼んだ方は、任せきりで、やる気がなさそう。主人公の近所付き合いの良さや、兼業にしては作業が大変な様子がわかる。自分は定年退職近くで奥さんも働きに出ている。息子は大学の工学部を出たが、親の近くに居てほしいという腹の中を読み取って近隣の中堅機械メーカーに勤める。
 高齢の兼業農家の穏やかな日常が手際よく描かれていて、大変興味深い。息子は会社のベトナム進出で出かけるが、帰ってくるとベトナム人女性と結婚したいという。
 文学的にどうのというより、多様化する日本社会の現状の一例をこれだけすっきり描くのは、強靭で冷静な社会的な視点がなくては出来ないであろう。そこから生まれる文章のまろやかさがある。だから同人誌を読むのは面白いのである。
 本誌は、11月1日発行。到着したばかりのもの。先に到着したのが多くあるが、これは読み応えがあるので、印象の強いうちに書いて紹介する。
 同人募集もしていて、作品掲載料は1ページあたり3000円で、作品掲載誌5冊の配布をうける。別に5冊以上の購入が必要。「未熟と思われる作品は不掲載にする場合があります」とある。なるほどと納得。
発行所=〒511?0284三重県いなべ市大安町梅戸2321?1、遠藤方。

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2011年5月10日 (火)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「種の起源」牧草泉】
 今でも役に立つ原理が記されていて面白い。大学でマルクス主義的な生物学を学ぶ時、教授に「生物学生徒の『種の起源』読まず、マルクス主義生徒の『資本論』読まず、という定評がある。君たちは最後まで読もう」といわれたのを覚えている。ここには、著者のダーウインか、毎回表示した方が親切のような気がする。同人誌だから仲間内の私的な書き物でもいいのだが。

【「漂砂」有森信二】
 学費もままならぬ農家にうまれて、苦労を重ねて大学教授の地位を得た主人公が、自立神経失調症の激しい発作に襲われる。病名的には高血圧の血圧変動による神経異常らしい。この病状は体験をしない他人にはわからない。その症状の表現は迫力がある。眩暈はその人の存在であり、人間の孤独な個性の普遍的な側面に触れて深みを感じさせる。神経バランスの偏りのある体質が、幼少時からもって生まれてあったように感じさせる。大学教授という社会的な地位は、まさしくその個性の持ち主であるのだが、その病の体質は、誰にも理解されないし、伝えようもない。物語の構造に従って、社会的な地位を失って、喪失感を出すのだが、読者には、その病が生まれて変わらず、主張する個性のもつ孤独が伝わってくる。
(「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

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12月19日付・「文芸同志会通信」より

「我らの行方」赤松健一
 会社の経営者たちの権力闘争における栄枯盛衰の物語。大阪の中堅設備工事会社・五光電設は年間売り上げ65億円規模。社長の西脇は、経理部員から社長に成り上がったやり手経営者である。株主は創業者の息子の根岸相談役である。
 西脇は根岸のお気に入りの杉山が次期社長を狙っており、近いうちに自分が退任させられることを自覚している。ある日、根岸から呼び出され、彼が財テクに失敗し、東京のひとまわり大きい会社、東日設備に株式を売却し、買収に応じたことを知らされるところから話がはじまる。すると、次期社長を約束された、杉山は買収された会社の社長となるしかなく、経営者としての権力は、親会社の下でしか発揮できない。また、系列関係の根強くある取引先にも影響が大きい。
 多視点の三人称小説で、登場人物が次々と現れ、社内の地位をめぐって出世争いの勝者と敗者の駆け引きが展開される。歯切れの良い、ストーリーテラーらしいスピードのある文章で、ぐいぐい読者を引っ張ってゆく。かなり長いものであるが、読み進めるうちに、五光電設をめぐる人間模様のなかに、会社という組織にかかわる仕事人間の生態を象徴的に描いているように、読めてくる。入れ替わり立ち代り現れる人たちが、ながながと会社人間的な哲学を述べるあたりに、サラリーマン化した日本人の一つの典型を見出すことができる。
 会社の業務上の繋がりなど、手堅く説得力をもって描かれ、面白く読み通せる。文芸的な味わいも随所にあり、単純な読み物から抜け出た品位を感じる。

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