2017年10月アーカイブ

「星灯」第5号(東京)

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2017年10月19日 (木)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「支配からの逃走」渥美二郎】
 人間による人間の支配をテーマに、教師の立場から見た支配的な事例を上げて、自からの行為も検証する。まとまった物語の形をとらないので、エッセイ的に見えるが、こうしたテーマ追求の形も純文学の特性であろう。ドストエフスキーの「地下生活者の手記」の手法もあるので、こうした作風に注目したい。
【「ラスト・マン・スタンディング」野川環】
 桜井大は、40才を超えた中年だが、現在はマウンテンバイクを使って、故郷の実家に戻ってきた。原発とは距離があるのだが、放射能汚染は、ひどい。そのため妻子は、大と別れてしまった。過疎となった実家は荒れ果てていた。彼は、勤めていた会社の早期退職に応じ、マイホームを売ることで退職金を使ってローンを返済した。それが、妻の離婚の意思で、ローンと離婚の慰謝料に多くの金が消えてしまった。残った多少の金で生活するために、実家に戻るしかない。過疎地であっても近くに、老婆が住んでいた。その老婆もそこから出て行くという。大は、放射線汚染のその地で暮らして行こうと、決心する。
 原発事故を忘れることがあっても、放射能汚染はなくならない。放射能汚染を日常化させた試みは、意義があると感じさせる。地域の電気水道事情や、セイタカアワダチ草の繁茂する様子など、フィクショナルであるが、話を面白くさせている。
【評論「日本文化論の形成と発展―加藤周一論ノート(4)」北村隆志】
 加藤周一という評論家のものを意識して読んだ記憶はない。が、マルクス主義思想の社会階級論文学についての評論は読んだ記憶がある。ここでは、加藤評論の日本人の精神的風土論を紹介しているので、大変興味深い。知識人による日本人論として、宗教や万葉集、源氏物語を生み出した精神の底流の分析を紹介している。
 なかでも、日本人の現在主義と集団主義の意識について、積極的に論じている。そのなかで共産主義者のなかに、戦争に反対した人々が存在していることを強調している。
 現代のポピュリズムの世界的な流れのなかで、現在主義と集団主義という視点は、分類項としては、幅が広すぎるようにも思える。これらは、近代社会の流れから知識人による分析を紹介している。その意味で勉強になる。
 ただ、本誌の大変面白い座談会(渥美二郎、神村和美、島村輝、松本たきこ)「『騎士団殺し』メッタ斬り」で論じられているような問題。つまり、近代社会以後、ポストモダンの文学的な現象に向けた視点での評論を生み出すことが課題ではないだろうか。
発行所=〒182-0035調布市上石原3?54?3?210、北村方。星灯編集委員会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

「澪」第10号(横浜市)

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2017年10月11日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「大池こども自然公園生態系レポート?1」かいぼり編(上)鈴木清美】
 長年にわたって地元の大池公園の自然を写真撮影や、生き物観察の場に愛好してきた写真家の作者が、編集者の依頼で、公園と大池のかいぼりの話が生まれるところから、住みついた外来種の魚類、動物などについて記す。こうした活動は自治体のやる気がないと、なかなか進まない。同時に、のちに地域の歴史に関しての貴重な資料にも成り得る。
 イギリスの居酒屋パブで、飲み客が町の噂や政治談議をしたこところから、パブリックという言葉が公共性の意味を持つようになったそうである。パブリックとジャーナリズムを合わせた機能を、文芸同人誌に折り込む試みに期待したい。写真も素晴らしい。一瞬の現象をスーパーリアリズムや幻影にちかい手法で表現するための努力が見える。同時にこれが永遠の一瞬かと、感じさせる。
 今回は難しすぎて、紹介ができないが、同時掲載の評論「ハイデガーを想う」柏山隆基の存在論を具象化したようにも見えるカメラ視線である。
【「カップマルタンの休憩小屋」衛藤潤】
 これは自衛隊員を兵士というより、公務員意識から描いた異色の作品である。時がくれば光があたるであろうと、想わせるものがある。
【随筆「かたち」草野みゆき】
 愛猫の葬儀所を探すはなしだが、細部の説明と描写が的確で、エッセイを超え、小説になっている。ただこの文才が、猫好きによるものか、持ち前の才気なのか見分けがつかないが、構成が巧みで面白い。
【「クラシック日本映画選5?カツライスアゲイン『座頭市物語』石渡均」】
 勝新太郎の映画の「座頭市」の解説で、運が良ければ、BSテレビでの再放送で鑑賞ができる。我が家のテレビは、26Vだが、BSの映像で見ると、撮影時における光と影の工夫のあとがはっきりすることがある。だから、光と闇の話はとくに面白かった。
【おとなの童話「ねこくる日々」片瀬平太】
 叙事と言葉のリズムの感覚が心地よい。つまり、文章表現が巧みということになる。
発行所=〒横浜市旭区左近山157?30、石渡方。文芸同人誌「澪」
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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