2017年2月アーカイブ

「R&W」第21号(愛知県)

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2017年2月21日 (火)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「クイーンズ・ハット」霧関忍】
 幼稚園のママ友の交際の様子を描く。陰に陽に、女の世界の嫉妬心と虚栄のバトルをスリリングに表現する。人間が狭い世界で、熾烈な闘争をくりひろげる。愚かで恐ろしい女の執念の生み出す、事件を語り、人間悪の現代性を表現して読みごたえがある。
【「ある女の肖像」渡辺勝】
 大企業のT電力会社の女性社員が、夜になると娼婦に変わる。そうした実在の事件をヒントに、作者のアレンジを楽しむような話。もうひとりの女性と、若い外国人との交情などの人物像も加えて、独自の物語にしている。実在の事件には、闇の謎の迫力があるが、物語となると起承転結が明快で、謎の魅力は失われる感じだ。
【「阿吽」松岡博】
 東大寺の仁王像「阿吽」の彫刻を手分けして作った、運慶と快慶の作仏の過程の二人の心理を描く。歴史物として、知識が得られて面白い。
【「紙一重」藤田充伯】
 長崎原爆投下のあと、米国従軍カメラマンであるジョー・オダネル氏が撮影した「焼き場に立つ少年」の死んだ赤子の弟を脊負い、歯をくいしばってりりしく、火葬をまつ姿の写真はあまりにも有名である。その映像から、野坂昭如「火垂の墓」、五木寛之の「蒼ざめた馬を見よ」の戦争の犠牲となった孤児たちにへ想いを馳せる。作者もまた、少年時代に、戦争の体験があり、「焼き場に立つ少年」と紙一重の運命であったことを語る。考えさせられる。
発行所=〒487?0033愛知県春日井市岩成台8?4?5?603―102、谷口(松蓉)方。
紹介者「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:R&W

2017年2月18日 (土) (*)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「どぶねずみ」大原正義】
 松尾芭蕉の弟子たちのなかに、路通という乞食生活をする男が入門する。貧しく汚れた俳人の存在そのものが、裕福な流派の生活ぶりの批判となる様子をえがく。俳諧文人の雰囲気を楽しみながら、俳句も味わえる。面白く読めるが、それほど路通の人間性への追求に深みはない。しかし、現代においては、想像力を読者に任せて、大まかな事柄表現の方が、多様な解釈の自由を邪魔しないとも考えられる。読者層の多様化を考えると、悪くない対応かも知れない。作者にその意図があったどうかはわからにのだが...。
【「残り香」(連載十一回)紅月冴子】
 長い連載のなかで、いろいろな出来事があって、最終回は節子と博之の恋愛状態で、それが続くことを感じさせるところで終る。恋愛が恋愛に受け取れる書き方。表現力は手堅く正確で、作家的手腕は充分。あとは読者をわくわくさせるテーマや素材に出会うかどうかではないか。
【「華麗なるトマトケチャップ?」甲山洋二】
 トマトケチャップも熟成して、まったり風味のワインになっている。
【風来流 言いたい放題「腐り切った政治屋どもに渇!小池東京都知事に期待」風来俊】
 こちらは都民で、それなりに都政を見ている。都庁の図書館で政策の資料をさがしたり、会見に出る交渉をしたりしている。外部の世情の見解はこうなのだ、という目安にはなる。ただし、行政の運営では、政治家と官僚との関係に問題がある。政治家に思想があっても、官僚には、自分の身分の保持の利害しかない。これは都庁も霞が関も同じで、役人の眼先の無思想の利害関係が、政治家の思想の実現に関わってくるのである。
発行所=〒567?0064大阪府茨木市上野町21号。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:日曜作家

2017年2月 8日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「約束」ひわきゆりこ】
 狭山というかつての祖母の家を訪れる。そこから子供の頃から大人になりまでの祖母の記憶と、過疎地的な山村の変わらぬように見える風景が、時の移ろいのなかに、語られる。
 祖母の記憶が昔の家庭の形の崩壊を暗示しながら、徐々に人が時間のなかに存在する儚さをじわりと感じさせる。そのなかで純郎と出会うことになる。この二人の愛の姿を言葉で迫るのであるが、そこに人生の経験を通じて獲得したと思わせる愛情感覚がいろどりである。さりげなさと独特の味わいが出ている。
 作品の背景には、常に死を意識した視線が感じられるが、それは死の影ではなく、死の光ともいうべき色合いもっている。タイトルの「約束」は恋人との死後の約束であり、主人公はその約束の日をひたすら待つのである。これまで、物語は人の死によって終わることになっていたが、現代文学では死後の世界と生の世界が広がっていくことの一例がここに示されているように思う。
【「河口に漂う」桑村勝士】
 主人公はシラウオの生態研究で、現在は無給だが、大学院で博士号取得に向けて有望なポジションにいる。結婚していて、子どもいる。妻が生活を支えているのだろう。研究生活のなかで、シラウオについて、やや詳しく知ることができる。
 同じ大学院生の中山という男は、博士号をとれる見込みはなく、物語の世界に行くといって姿を消す。この作品も異界との接点をほのめかして終わる。この作品のあとに、作者の「雑感」というエッセイがある。そこで、小説には関数化できる法則があるかもしれないと思ったことがあるという。そして、書くものと書かないものの判断が大切だとある。
 こうした問題は、読者層をどこに向けたものかによって、異なるが、非日常性を好む大衆小説向けには確かにそうしたものはある。ハーレクレインという米国の官能小説は、コンピューターの作った流れと要素を採用しているといわれている。
 また、大塚英志の「物語の体操」で、その構造の共通性をもとに、物語化の基本構造を解説している。ところが文芸作品には物語のないものもあるので、一概に法則的なものが存在するとは言えないのであろう。
【「緑の手綱」雨宮浩二】
 なぜ人は、小説を読むかというと、暇つぶしであり、現実からの離脱、認識力の高度化により、意識の豊かさを楽しむなどの要件がある。この小説は、非日常的な異界物語であり、設定事態はライトノベルに近い、架空世界ものである。映画「アバター」を見るような森の中の描写が楽しめる。
【「三人の母」井上元義】
 産みの母と育ての母、義理の母とそれぞれの事情から、生活のなかで、そうなった経緯を語る。ひとの生活や身の上話は、人間の興味の原点である。テレビ番組でも一般人や、かつての有名人のその後など、身の上情報が人気である。
 その意味で、文学通のこなれた文章での身の上を話なので、興味深く読んだ。自分の人生と比較してしまうからかもしれない。サルトルだったと思うが、人間の「実存は目的に先行する」とかいって、目的をもって作られた道具や商品と人間が基本的に異なる存在であるとする。故に、人の人生行路は興味をもって読まれるのであろう。
発行所=〒811-2114福岡県粕屋郡須惠町678?3、樋脇方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:胡壷・KOKO

2017年2月 4日 (土)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「記憶の沼地」須崎隆志】
 短い章をいくつも重ねて、記憶をたどった想いを述べている。記憶をたどることで、曖昧さの中に意識の流れが拡大し、イメージを広げて、物語化することなく、浮遊して失われがちな心象を浮き彫りにしている。人間精神の幽明な部分の表現として味わいがある。
【「海辺の墓地」石塚邦男】
 自分がどこで誰か、記憶を失った情況で、私は海辺を彷徨い、かつての自分を知るという女性に出会う。これには落ちがあって、死者が幽体となってこの世を彷徨い、自らの墓地に戻っていく。これは幽霊物語という形式をもっていることで、話としてまとまりがある。読後すっきりする。その分、味わいが浅くなるのはやむを得ないかもしれない。
発行所=〒006?034札幌市手稲区稲穂四条四丁目4?18、田中方。札幌文学会。
紹介者=「詩人回廊」北一郎

カテゴリー:札幌文学

2017年2月 2日 (木)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌は胆振芸術祭実行委員会の発行。巻末に胆振管内文芸団体一覧がある。地域は白老町、苫小牧、登別市、むかわ町、安平町、室蘭市などで、短歌、俳句、エッセイの一般文芸の60数グループである。
【「金成マツ略伝(三)」浅野清】
 石川啄木の友人で支援者でもあった金田一京助。彼の北海道の少数民族アイヌの言語研究を手助けしたのが金成マツである。青空文庫に「おば金成マツのこと」(知里真志保)などがある。ここではその時代のさまざまな資料が示されているが、そのなかに大正2年の新聞「北海タイムス」に旭川町近文における旧土人としてアイヌの記事が紹介されている。なかに差別といじめの戦いも含まれている。アイヌ民族は国連でも少数民族に認定されている。研究家には有益な資料であろう。
【「死骨の魔王・赤毛熊―なぜ赤毛と渾名されたのか謎であるー」石塚邦男】
 明治時代に苫小牧が開拓がすすみ、製糸工場ができた。用材に森林を伐採したので、その山地に住む赤毛熊という知恵のある巨熊が、人が備蓄している食材を食い荒らしてしまう。怪我をもせている。熟練の漁師たちが退治のために死骨湖に山狩りにいくが、赤毛熊は戦いの中で、追手を逃れて討たれなかったということだ。死骨湖というのは昔の名前で、いまは支笏湖になっていると小説のなかで説明している。風土にあった作品で、面白く読める。
【「クラック」高岡啓次郎】
 工務店を一人社長で経営する私は、10年前に知り合った家のモルタルのひび割れの修理を頼まれる。知り合いだった女の娘も、10年前に子供だった。今は二人の子持ちになっている。この一家の生活の変化と、離婚歴のある私の現在の結婚生活。家のクラックを修理しながら、二つの家庭のひび割れを見つめさせる。渋い味の短編である。特長的なのが、モルタルのひび割れの修理の仕方などが詳しく書いてあるところ。読み物の短編では、物語の運びに筆を多く費やすので、こうした仕事の具体的手順などは省略せざるを得ないし、知識もない。こうしたところに優れた個性を感じさせる。
発行所=胆振芸術祭実行委員会。発行者=〒050-0072室蘭市高砂5?7?1、三村美代子・室蘭文化連盟会長。編集者=室蘭文芸家協会、井村敦。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

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