2016年2月アーカイブ

「R&W」第19号(愛知県)

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2016年2月28日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌は、短編小説の読み方、書き方の創作教室の作品集だそうだが、毎号ごとの多彩さが増している。創作同人誌というのがたしかに合っている。
【「山岳へ...」渡辺勝彦】
 妻を亡くした、高齢者の「わたし」が、30年前に共に山登りをした思い出をたどるため、山行きをする。その途中で、失恋を経験した若い女性と同行することになる。その女性の身の上話と聞きながら、妻との思い出をたどっていく。なんとなく軽く読ませられながら、自然な抒情を感じさせる。手記とは異なる、創作的な自然さが、文芸味となっている。
【「愚弄は今」松蓉】
 「グローは今」というフレーズを活かし、91歳の高齢者の独白というかたちで、その情念の動きと、現代の世相への感受性を語る。長いが、ユニークな表現の仕方に工夫があり、生活日誌とは距離をもった、底に孤独な味わいをもつ文芸作品。
【「滲話窮題」早海徒雪】
日常のなかに変なことが起きる超常現象をからませたショート・ショートが3話。「昔の彼氏が訪れた時の話」「彼女の浮気を知った時の話」「親友との絆を確かめあった時の話」がある。文学フリーマーケットで若者たちが冊子にして売っているライトノベルの流れ的作風で、種に文学精神のようなものがありそうだが、どこに向かうのか。
【「素人ロケンロール」亀山誄】
 資産家で会社の社長がプレスリーに取りつかれて、社員や周囲の迷惑を顧みず自己中心主義を貫く話。ジコチュウ人間を具体的にキャラクター化したところが面白く読める。
【「九相図」盛岡篤史】
 人間が死んだあとは、どのような段階を経るか、を九段階にわけてリアルの描いた九相図という秘画があるらしい。宗教的色彩を帯びたホラーである。死を題材にしているので、書き方次第では純文学的にもなるのかも知れないが、ここでは単純エンタメ小説的な方向で、形式的完成度は高い。
 発行所=〒480?1147愛知県長久手市市が洞1丁目303、渡辺方。「R&W」編集室。
紹介者「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:R&W

2016年2月20日 (土)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌は、どれも人間の普通の生活のなかの営みを題材にして、文章表現がなされている。事件性もないし、スペクタクル性もない。ここにある杉山氏の触れた散文精神や散文芸術としての方向性を持ったものという印象がある。
【「僕の行く道」稲田節子】
 大学を出て、しばらくサラリーマンをしていた信彦が、思うところがあって、会社をやめる。実家を出て、恋人の多江の住まいに転がり込む。しばらく職探しをするが、合格しても、勤める気が起きない。それから、自分のコーヒーショップを開くことを決める。
 その過程を描く。不思議な現象だが、いかにも女性の筆による男性像でることが出て、主人公の優男ぶりが目立つ。喫茶店の居抜き物件を探すのだが、現実ばなれした環境から良い物件がみつかり、多江とコーヒーショップ経営を楽しむ。
 経営の状態はどうなるかと、興味をひくところで、ちょっとした人間模様が味付けと物語性をもって、店の経営がこれからも順調であることを暗示して終わる。心地よい散文調の作品に仕上がっている。
【「十年日記」本間弘子】
 日常生活を文学色に染めて、繁栄させる散文詩的流れをつくっている。物語性をなしにして、断片的だが、楽しく読める。ヴァージニア・ウルフに愛着を示すところがあるが、十年日誌なので、密度が薄いのは必然か。
【随筆「のどかな日々(全八編)」鷲頭智賀子】
 日々の過ごす様子を丹念にピックアップする。「朝のしあわせ」という話のなかに「この幸せがいつまでも続きますように」とある。端的に平和な日常が壊れやすいことへの不安を表している。これは巻頭作「僕の行く道」にも漂う空気である。
 人間の社会生活の構造には、変化をさせるという要素があるために、同じ状態が続くことはない。したがって、幸せが続くことはあまりないものらしい、と感慨を呼び起こす。「萬壽友屋とは」が、資金繰りのための公庫借り入れの算段工夫の話がダントツで面白い。
【評論「俊寛幸福論―菊池寛、芥川龍之介の『俊寛』像」上村小百合】
 これは日本近代文学期の菊池と芥川との作風のちがいを、テーマの取り方、設定のちがいで比較したもの。当時から、人間の倫理的な標準として「真・善・美」の哲学が問題されたらしいが、「美」に傾倒した芥川と「善」を最優先した菊池の作風がよく分析されている。
【「日本人に平和の思想は根づいたか」杉山武子】
 戦争拒否の感覚的な気持ちを持ち始めた作者の思春期の体験から、社会的な傾向としての戦争を取り込んで行こうとする気分とのずれ。そこから、作者の北村透谷や、トルストイの翻訳家であったという北御門二郎という人の紹介、さらに広津和郎の散文精神から散文芸術論まで、読書遍歴と文学論にまで評論の筆をのばす。文学的な表現による日本人の平和思想の形を、個人の読書体験と照合させている。
 現代における平和思想は国際的動向と密接にかかわり、グローバルなものなってきている。「憲法九条のノーベル平和賞を」の鷹巣直美(実行員会共同代表)さんが、この運動をひとりで立ち上げた時に、誹謗中傷を受け、挫折しそうになった時、それを支援したのは、高齢の年寄りたちだったという。世代間の感覚の違いを感じさせる。文学志向の強い平和論として個性的である。
発行所=鹿児島市新栄町19?16?702、上村方「火の鳥社」。
 紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

2016年2月 3日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「偽手紙」井本元義】
 中学教師だった「私」が昭和天皇の崩御の年に、バーで男と知り合う。その男が、思想家で作家、ジャーナリストで社会運動家でもあった大杉 栄(1885年―(明治18年)? 1923年―(大正12年)の孫だという。
 そのことから、「私」はかつて、ある文壇バーで大杉栄の弟の孫との出会いがあったことを思い出す。そうしたなかで、大杉栄関連人脈からえた大杉栄の活動ぶりの知るところを記す。そのうちに大杉栄の手紙とされるものを入手する。それは偽物かも知れなかった。
 そして、その手紙の内容を記す。
 いろいろな要素を含んだ小説である。ただ、全体にパリにおける文学や絵画のアーチスト的な雰囲気を感じさせるロマンティックな小説となっている。
 同じ作者の「あちらこちら文学散歩」も同時掲載されている。これは、ランボーの詩人時代と世俗的商人生活のなかの人間の魂に関するものである。いずれも人間精神の芸術的宇宙空間の領域で、作者の精神的青春性に満ちたものある。日常の雑事を忘れさせる味わいがある。
【「落下」有森信二】
 「落下」というテーマで、文芸部仲間が作品を書こうということになる。出だしは読物風で、興味をもたす巧い展開である。それは同時に娯楽小説的に読ませられるということでもある。ところが、話は投身自殺などのイメージを展開させる純文学的な方向に向かう。
 自己存在の不調和感の表現がテーマだと読むと、これまでの作者の作品とつながるものを感じさせる。なかなか難しいところを表現しようとするため、書き方も難しくなっているようだ。
【「罰法転勤」中野薫】
 組織人事の側面から、警察官という職業の特性を描いたもので、大変興味深く面白く読めた。
発行所=福岡県太宰府市観世音寺1?5?33(松本方)
紹介者・「詩人回廊」北一郎

カテゴリー:海(第二期)

2016年2月 2日 (火)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「大泉黒石著『おらんださん』の中の『ジャン・セニウス派の僧をめぐって』」中村浩巳】
 原稿用紙440枚を六回に渡って連載した最終回です。彼の渾身の力作が終了しました。
 太平洋戦争直前に出版された大泉作品は反戦小説かと問いながら進める中村史観論でしょう。
 初回冒頭に、聖書のイザヤ書引用を置きその設問を最後で解き明かす周到な構成です。
 大泉の小説作品中の18世紀日本の海防論を軸に、オランダ近代史に入り込み縦横に論を展開します。
 感化された石原莞爾の満州論や、儒教の人間観を駆使し、禅問答的な持論開陳が面白く読めました。
 中村氏は法政大学出版局より「ファランの痙攣派」という18世紀フランス宗教紹介書を出しています。
 大学での教鞭と研究の成果を存分に書ききった会心の作品だと思います。
 大泉の小説「おらんださん」を非戦作品と読み込んで、結論に持ち込む論法は寄り道が多く、彼の講義態度を想像しました。
【「日本海海戦観戦記」木内是壽】
 木内氏は数年間に渡り「文豪の遺言」や「梅谷庄吉の辛亥革命」などの長編連載を行って来ました。
 今回は短い作品ですがアルゼンチンとの関係を持ち出した着眼が良いと思いました。
 親日国としての歴史を紹介しています。軍艦を譲渡する仲です。その軍艦が日本海海戦を戦います。
 海戦の記述は多くの歴史書等と同じで無難に筆を進めています。前後にアルゼンチンの事を書いて締めています。
 「日進」「春日」と名付けられた譲渡軍艦は装甲巡洋艦という種類です。その活躍は書かれてはいません。
 簡単な戦闘推移と戦後処理等が短く紹介されています。明治大日本帝国が世界列強になる契機の戦いです。
 歴史や戦史よりも二つの国の友好関係を主題にしています。これがこの作品の特徴でしょう。
 両軍の主力である多数の戦艦に比して、装甲巡洋艦の特性を少し紹介して欲しかったとおもいます。
 そのことで二隻の軍艦の重要性とアルゼンチンの好意が見えてくる書き方もあると思います。
  「相模文芸」は、 30号の節目を超え40号二十周年へ向けて順調に進行しています。近年は連続して大作を掲載する事で会を支える中興の中心者の二人がいます。
 中村浩巳氏と木内是壽氏です。今回も健筆を振るって存在感を示しています。
紹介者・町田文芸交流会事務局長《外狩雅巳のひろば》

カテゴリー:相模文芸

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