2015年9月アーカイブ

「孤帆」26号(横浜市)

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2015年9月28日 (月)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「デッドエンドの世界―シュウジの世界」塚田遼】
 SF小説の連載で<前回までのあらすじ>があり、??世界では男性でもない女性でもないヒジュラという生殖能力のない人間が急増していた。その結果、人類の人口は激減し、地球上の至るところが廃墟地帯と化した...などとある。
 生殖能力のないヒジュラが、なぜ増えるのか、よくわからないが、とにかく通常の人間と社会的に差別されている。不合理な状況のなかで、普通の人間の「俺」が母親に子ども作るために結婚しなさいと望まれながら、身元不明の死者の死体を片付ける仕事につく。そこの会社勤めと、人間関係は、現在のサラリーマンとあまり変わらない。
 ただ、このなかで、「俺」は、なぜ結婚しなければないらないか、と疑問を投げかける。また、上司は、「子供を作るための嫁さんとのセックスは仕事なんだよ」と、それが誰かに強制されたことであるように受け取れる言葉がある。
 それが、神の強制によるものという風に考えているなら、神の悪意の奴隷という認識をもっているということになる。海外向けに翻訳されたら、ユニークな発想と思われるのではないだろうか。話そのものは、かなり面白くよませる。書き方も巧い。ただ、国家がどうしてそうした制度を成立させたか、というような視点がないので、SF風俗小説という感じがした。
【「王子の服」奥端秀彰】
 インチキ衣装商人にだまされた王様を「王様は裸だ」と言い切ったハンス少年が国民の人気者になる。そして、「王様は裸だ」と、声を恰好よくかけるための練習をする。ところが、女友達のハンナが言うのには、王様は服装を豪奢にしているより、最大の質素さである裸を選んだのだと教えられる。面白い寓話である。
 作者は25号で、「ルストロ」という、オクト人という反日思想の民族が日本を支配して、その社会で日本人が生活するという近未来SF的作品を書いていたが、こちらのほうが皮肉が強かった。
 塚田作品、奥端作品とも、作品の出来の良し悪しを感じる前に、社会における自己意識の反映として、このような発想が出ることに興味を感じた。
 また、10号でとうやまりょうこ「新月」が印象にある。当初は、もう何年も前の漢字筆名の頃の作品では、風俗的な小説に終わっていて、その熱意が理解できずに、純文学と距離があるように感じた。しかし、最近はなかなか現代という時代性のなかに入り込んでいる。というより、現代文学が、風俗的になってきていて、作者のほうにすり寄ってきているように思えるのだ。それを先見性があるといえば、そうもいえるのであろう。
発行所=横浜市西区浜松町6?13?402、とうやま方。
紹介者=「詩人回廊」北 一郎。

カテゴリー:孤帆

<2015年09月27日 (日)付、「文芸同人誌案内」掲示板より転載・投稿者:ひわき>

【「宮本さんの部屋」北原政典】
地味だけれど、懐かしいような、読んでいるとだんだん心が鎮まってくるような作品です。特別な出来事も登場人物もありませんが、作品世界の時間の流れが好きです。
【「パリ スフロ通り」井本元義】
この方はいくつもの同人誌に精力的に作品を発表されています。この作品も含め、何編かは同じモチーフです。作者にとって、書いても書いても更に書きたいことが溢れてくるのでしょう。そのような感性を自分の中に留めているのは羨ましいです。

カテゴリー:詩と眞實

「日曜作家」11号(茨木市)

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2015年9月25日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

連載中の甲山羊二「優雅なるトマトケチャップ」が、書籍化されたそうだ。文学性と恋心をからめて、特徴のある文体を生み出しているので、文章表現技術に関心が高い人には、一読の価値があるように思う。
【「息長丹生真人長人のこと」大原正義】
 10号に「霊仙山」を書いており、日本から中国に渡り、当地の三蔵法師になった僧、霊仙の心境を描き、同時にそうした僧の誕生した状況を、落ち着いた地味と滋味が融合した筆致で解説する。話には聞いていたが、改めて感銘を受けた。本篇は、その関連の話で、霊仙は「息長丹生真人長人」という一族の出身ではないかと、想わせる話。
 細部に仏教を信仰しているか、学んでいる宗教人の雰囲気が伝わってきて、鎮魂の気持ちを抱かさせられる。同じ作者が作品「母、今どこに 幽明境を異にして」で、亡くなった母親思慕している。これも、妙に胸を打つ。自分の母は、立派でもなんでもなく、強情で、39度の熱でも入院を拒み、そのまま自宅で亡くなった。自分自身でも、愛していたかどうか、今でもわからない。ただ母と子という立場に縛られていたのだ。そんなことが心に浮かんできた。
【「少女エリナ」中向静】
 留守家庭児童会室での子供たちとの交流を描く。多少の不都合、不合理があっても、子供の自然な気持ちを傷つけまいとする、室長だったが、その人が去り、新しい室長は手際良く仕事をするが、子供気持ちには気をまわすことができない。傷つきやすい子供たちとのやりとりと生態を、活き活きと表現する。大人になるということは、心に鎧が出来て、心が傷つかないようになってしまうことなのかも知れないと思った。
発行所=〒大阪府茨木市上野町21番9号、大原片。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

カテゴリー:日曜作家

2015年9月 7日 (月)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「やってきた娘」斎藤澄子】
 後妻に入った光子は、夫のポケットから、前妻の娘、千代の手紙をみつけ、夫が光子に隠して文通をしていたことがわかる。それから、その娘が家にやってきたという話。時代は昭和27年だという。そうした時代に関係なく、後妻と前妻娘が、夫としての男と前妻の娘が父親としての愛情の奪い合いで、バトルを繰り広げる様子が面白い。
 お互いに、相手を魔女として意識する様子が軽いタッチで、微妙な心理を捌いている。それだけに深みには欠けるが、面白い素材ではある。
【「風の遠鳴り」竹内菊世】
 夫を亡くして仏壇で夫に話しかける生活。そこに証券会社の男がやってきて、預けている投資信託が、大損を出しているという。とり返しますから、任してくださいという。しばらくすると、本当に損した分も取り返したと、お金をもってくる。
 証券マンは、もっと儲けられると、高額な投資をすすめるので、そうする。すると、利益が投資額のわりには大きくなる。そこで、姉にも投資を勧めるが、どうせ騙されてしまうだけだ、と話にのってこない。しばらくすると、証券マンが、投資した金は失敗して全部なくなりました、といってくる。そこで主人公は、一時的に落胆の極みに陥るが、気を取り直して、仏壇の夫との対話で気を取り直す。良くあるうまい投資話の手順を長々と書いてある。投資話は怪しげだが、このような金融商売の餌食になる例は、事実多いのではないか、と感じさせるリアリティがある。心が寒くなるところのある作品だ。
【「安治川」佐滝幻太】
 宇宙のロマンから世界の情勢、現在の世相と事件をからませながら、自分の人生の記憶に残る出来事や、ドストエフスキー、宮本輝などの小説に思いを寄せる。まさに心に浮かぶ出来事を丁寧に書いている。意識の流れそのままである。文芸趣味の原点を感じさせる。
【「龍ちゃんの忘れえぬ人々」(1)三木田卓郎】
 四国放送テレビ・ラジオなどのニュースキャスター梅津龍太郎さん(74)=徳島市在住=から作者が聞き書きしたもの。山田洋次監督の映画祭を企画した話や「寅さん」の周辺。杉村春子、太地喜和子、加藤武などの裏話があり、今となっては貴重な資料に思える。
「飛行船」=連絡先770?0842徳島市通町2丁目12,竹内菊世.
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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