2015年7月アーカイブ

「文芸中部」99号(東海市)

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2015年7月26日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「榧の柾目の将棋盤―漂い果てつ・異聞」三田村博史】
 小栗重吉の『船長日記(ふなおさにっき)』を種本とした歴史小説である。フリー百科事典によると、「1813年(文化10年)、重吉は尾張藩の小嶋屋庄右衛門所有の船・督乗丸(約120トン)の船頭として、部下の乗組員13名と共に師崎から江戸へ出航。江戸から帰還する途中、遠州灘で暴風雨に巻き込まれ遭難。督乗丸は、太平洋を漂流。以後1815年(文化12年)に、アメリカ・サンタバーバラ付近の洋上でイギリスの商船号に救助されるまで、484日間にわたって漂流した。生存者は、重吉,、音吉、半兵衛の3名であった。生還した重吉は、新城藩(現愛知県新城市)の家老の池田寛親の聞き取りによる口述筆記にて『船長日記(ふなおさにっき)』を書き上げた。積荷の大豆をきな粉にしたり、魚を釣って飢えをしのいだこと、同乗の乗組員が壊血病や栄養失調で次々と命を落とす、救助後のアメリカにおける生活などが記録されている。鎖国下の日本における数少ない海外見聞録」とある。
 重吉たちの漂流生き残り時間は、世界最長だそうである。ここでは、生き残りのひとり音吉という男の帰国後の生活ぶりを描いている。この事件を知らなかったが、作品を読み進むうちに、それがどのようなものであったか、理解が進んだ。作者の将棋の話を柱にした工夫が光っている。それぞれ劇的なエピソードをただ書き連ねると、全体像が散漫になるところを、将棋盤の逸話を軸に、あれこれ話をひろげていくことで、『船長日記(ふなおさにっき)』への解説書的な役割を果たしていると思う。あとがきに三田村氏自身の解説がある。
【「出奔」本興寺更】
 これは時代小説のジャンル。西永という学門に熱心で、真面目な男が、突然藩を出奔してまったことで、お家取りつぶしとなる。母親にその行方不舞の真実追求を頼まれた同心役の兵吾。調べを進めているうちに、事情をしるものが、その理由を隠匿している様子。よくよく調べると、大阪の大塩平八郎に私淑し、大塩の決起に参加したものとわかる話。
 ミステリアスな構成や筆の運びがこなれていて、いわゆる癒しを求める娯楽的「時代小説」に注力し、300枚ほどのものを書けば、市場の新書スタイルで読者を獲得できるのではという感じがした。陰謀話をテーマにしていた上田秀人という作家は、売れ出すと、2?3カ月に文庫本を出すほどになっている。そこまでするか、疲れそう。と思わないこともないが、時代小説には門戸が広い。
発行所=〒477?0032愛知県東海市加木屋町泡池11‐318、三田村方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤所一。

カテゴリー:文芸中部

「仙台文学」86号(仙台市)

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2015年7月24日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 七月十日付の「仙台文学」86号が届いた。同人13名の仙台文学の会が発行する文芸同人誌である。
 108頁の今号では牛島富美二「長左と彦左」が80枚を超える力作である。この作品はー仙台維新譜?―とある様に長編連作の最新作品となっている。
 明治維新を舞台に仙台藩の様々な内実を掘り起こして小説仕立てにしてある。今回は薩長明治政府に対抗した奥羽列藩同盟の盟主仙台藩の降伏への道筋の一つが描かれている。
 兵器の大差での劣勢も具体的に記されていて苦境の仙台藩降伏使節が遭遇する実話的な作品。二人の百姓、彦左衛門と長左衛門が遠征軍の一つ肥後藩軍に降伏文としての謝罪文を届ける。古文書などの参考文献を多数読み込んで創作し二人の百姓の体験談として作り上げてある。
 戊辰戦争として日本史学習で片鱗に触れただけなのでこういう歴史文学作品には感心してしまう。
 仙台市民・牛島氏の意欲と根気の原点は何か?と色々詮索したくなった。きっかけは数年前だ。
 全国展開の同人誌「文学街」の呼びかけたアンソロジーに参加して「仙台文学」の存在を知った。
 手紙で「外狩先生の御子息ですか?」と言う質問が来た。続けて「先生とは同僚でした」と書かれていた。
 亡父が仙台市の東北学院勤務時に、歳の離れた同僚教師として勤務した過去を知らせてくれた。
 奇遇である。以来毎号「仙台文学」の送付が続いている。仙台維新譜とも長い付き合いである。
 東北大地震や福島原発問題などを見つめた目と心で詩を書き東北の歴史も書き続けている詩人・小説家である。
 「あれから」という牛島氏の詩も読みごたえがある。――八十のひとは夢と幻を現に置き換えたあれから――の一節から氏の長い人生を確かめる覚めた目を感じ。
 発行所=〒981-312 仙台市泉区向陽台4-3-20、牛島富美二(ごとうふみじ)方。
紹介者=「詩人回廊」外狩雅巳

カテゴリー:仙台文学

「R&W・18」愛知県長久手市

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2015年7月22日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 【R&w】は7月発行となっている。200ページを超える厚い冊子で15作品が詰め込まれている。この同人誌は朝日カルチャーセンター「短編小説を読む・書く」(藤田充伯講師)の受講者達で発行されている。年2回刊行で来年は10周年とかだそうです。講師の藤田充伯氏も作品を載せています。
 文章教室等の生徒たちでの文芸同人誌発行は多い。私も中央労働学院・文芸科仲間と発行した過去が有ります。それでもこの長久手市を拠点とする会が10年間も継続する結束力の強さには驚いている。講師の受講生の全てのメンバーの熱意に感動しています。
《参照:外狩雅巳のひろば》

カテゴリー:R&W

「孤帆」Vol25」横浜市西区

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2015年7月22日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 【孤帆】の発行日は7月1日です。奥付に頒価700円(安い!)と宣伝しています。
 畠山拓「二人の女」が面白かった。鈴木春奈と永井真由美の2つの名をもつ女が登場する。75才の葛巻公三と知り合い公三の購入した家で同棲生活を始めた20代前半の若い真由美。彼女の魅力に溺れ一時失踪等も気にせず心も肉体も投入した挙句に自殺を装う殺害に合う。その失踪時等を使用して彼女は鈴木春奈や大庭春奈を名乗り若い男達と愛し合っている。自殺を怪しんだ警察が捜査する。山口刑事の語り口で彼女の素性が解き明かされてゆく。120枚を超す作品は公三を主人公にした箇所が長く若い女にのめり込む過程が細密に書かれている。老春が書き込まれ公三と年の近い私はほだされ哀感にむせび読み込まされてしまった。
《参照:外狩雅巳のひろば》

カテゴリー:孤帆

「星灯」2号 東京都調布市

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 2015年7月22日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【星灯】は七月15日付けの発行です。特集として「党生活者」の再評価を行っています。戦後七十年の地点での意味づけを宮本阿伎氏・佐藤三郎氏・長谷川直之氏が行っています。近年急に小林多喜二の作品が多くの人々によまれている背景を考える良い材料になりました。四十年前に企業での労組結成時にに読んだ「工場細胞」等の感慨が蘇ってきました。
(作品評として根保孝栄・石塚邦男氏が「関東文芸交流会掲示板」7月9日、10日に書き込んでいる)
《参照:外狩雅巳のひろば》

2015年7月17日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「蝸牛」難波田節子】
 かつて多くみられた日本の家族の典型的な構造がある。その家に嫁いだ由香という女性の視点で、その事情を細部にわたって描く。由香は家つき、姑つき、夫の姉という小姑つきという、すべてが付いている男と結婚する。もちろん同居である。現代女性が最も嫁入りしたがらない家風である。
 出勤する夫の峻一を由香が見送る。その前に長女の峰子が出勤するときには、姑の藤枝が玄関まで見送る。結婚前は、峻一と峰子は家を出ると、連れだって駅まで一緒であった。そのことをあとで由香は知る。峰子と峻一は腹ちがいの姉と弟で、峰子は借金を残して亡くなった父親の後始末を、働いて整理し、弟の学費まで支援した。藤枝は、そうした義理の娘、峰子を大切にする。義母の藤枝はお茶の教室の先生であるが、その収入はたかが知れていて、すべては峰子が頼りである。この家での家長的存在は、峰子であることがわかる。 
 夫の峻一は長男という意識はあるが、姉の峰子には頭が上がらない。姉より先に結婚したことにひけ目を感じている。そのため、由香と峻一との結婚生活は、下宿人のようで、夫婦の営みですらのびのびとすることが出来ない。
 そうしたなかで、家の犠牲になって働き婚期を逸した峰子に縁談が起きる。一度目は彼女が高校中退ということで断られるが、二度目は、人物は問題がないが男性の機能に問題がある。性交渉の期待できない結婚である。周囲はその縁談を上手くいくことを望むのである。旧さを残す日本の伝統的な家族構造のひとつの姿を浮き彫りにしている。
 人間の社会的な関係をマルクス主義思想は、社会の発展段階の歴史の過程と階級制度に焦点を当てた。要因を資本主義社会に置くことで、それを批判的に捉えた。
 しかし、この作品はそうした社会構造とは切断されたところに家族関係が存在することを浮き彫りにしている。ここには資本家と労働者の階級対立は入りこまないし、せいぜい初期の共同体理論のなかで省略されている。
 ところが、構造主義思想者といわれるレヴィ=ストロースは「親族の基本構造」を人間社会の特性として捉えた。これは資本主義以前の未開人社会にも当てはまるものである。その意味でマルクス主義思想の不足を補うようなところがある。
 内田樹は、その思想の解説書「寝ながら学べる構造主義」(文春新書)で、私たちが、自然で内発的だと信じている、親族への親しみの感情は、社会システム上の「役割演技」に他ならず、社会システムが違うところでは、親族間に育つべき標準的な感情が違う、と解説する。そして、「夫婦は決して人前で親しさを示さないことや、父子口をきかないのが『正しい』親族関係の表現であるとされている社会集団が現に存在するのです」とする。そして、「人間が社会構造を作り出すのではなく、そこの社会構造が人間を作り出す」と説く。
 その例として「男はつらいよ」の寅さんがなかなか結婚できないのも、寅さんに魅力がないためでなく、妹のさくらとの関係が親密過ぎたためだと見る。その先に親族関係の構造の底には、近親相姦を回避するというシステムにまで論が展開するのだが、ここでは省略する。
 作品「蝸牛」においては、そのタイトルからして、この論は作者の意図とずれているであろう。峰子はなぜこうまで家族に献身的に尽くすのか、長男の峻一の「絶対的な存在」であるはずの「家の論理」から外れた曖昧な態度、由香の理屈を超えた嫁先への同化意識。これらへの疑問が、生じるところだ。それは、小説的な綻びでというより、親族の生態の現実的反映として読めるところが面白い。
発行所=〒215?0003川崎市麻生区高石5?3?3、永井方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

カテゴリー:季刊・遠近

2015年7月12日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 【R&w】は7月発行となっている。200ページを超える厚い冊子で15作品が詰め込まれている。この同人誌は朝日カルチャーセンター「短編小説を読む・書く」(藤田充伯講師)の受講者達で発行されている。年2回刊行で来年は10周年とかだそうです。講師の藤田充伯氏も作品を載せています。
 文章教室等の生徒たちでの文芸同人誌発行は多い。私も中央労働学院・文芸科仲間と発行した過去が有ります。それでもこの長久手市を拠点とする会が10年間も継続する結束力の強さには驚いている。講師の受講生の全てのメンバーの熱意に感動しています。
受贈と感想=外狩雅巳

カテゴリー:R&W

「星灯」2号(東京都調布市)

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2015年7月12日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 【星灯】は七月15日付けの発行です。特集として「党生活者」の再評価を行っています。戦後七十年の地点での意味づけを宮本阿伎氏・佐藤三郎氏・長谷川直之氏が行っています。近年急に小林多喜二の作品が多くの人々によまれている背景を考える良い材料になりました。四十年前に企業での労組結成時にに読んだ「工場細胞」等の感慨が蘇ってきました。
(作品評として根保孝栄・石塚邦男氏が「関東文芸交流会掲示板」7月9日、10日に書き込んでいる)
受贈と感想=外狩雅巳

「弦」第97号(名古屋)

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2015年7月11日 (土)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「竜の舟」小森由美】
 ノゾミという少女が出てくる。河原で小さな箱庭風にミニチュアの街をつくっている。童話風の出だし。そのうち川の魚が居なくなったことから放射能汚染の話題が出てくる。
「橋向こう住宅は五年ほど前に、西日本を襲った地震と津波による原子力発電所の事故で、風下となった首都の西側の地域から放射能を避けるために、避難してきた人たちのものだ」という説明があって、近未来小説だとわかる。声高に語るのでなく、童話風にしたのが、この作品の肝か。原発の放射能汚染と被曝の問題が、福島に限らず、社会的な広がりをもってきたことがわかる。
 ノゾミという名前も、人がどんな状況でも、それなりに希望をもって生きることの暗喩としてきいている。ちなみに、J・Kローリングのファンタジー小説「ハリー・ポッター」の第1巻「賢者の石」編には、「みぞの鏡」という存在があって、それは自己の望み通りの姿が自分として映る鏡。原作では、人間の自己陶酔欲を象徴したアナグラムだそうだ。評論家の浜矩子は、その希みを日本語アナグラム化して、「みぞの鏡」としたことを名訳だと称賛している。
【「建前は、どちらなのか」小森由美】
 これを読むと、小森由美氏が、気まぐれで上記の作品を書いているわけでないことがわかる。イスラム過激派組織「イスラム国」(当時)が湯川榛氏、後藤健二氏殺害した。その事前の日本政府の人命第一という建前と、人質救出交渉の事情の現実のずれを指摘し、安倍内閣の米国追従「安保法制」に疑問を呈する。
 これらの情報はメディアで知るのだが、ジャーナリストの林克明氏は、その交渉過程の記録文書を見せて欲しいと、公開請求したところ、「内閣府」では、そのような文書は存在しないと回答。外務省では、あったとしても見せられないという主旨の回答だった、と話していた。外務大臣や安倍首相なども、これらの交渉や、安保法制の実行事態には「特定秘密保護法」の適用があることを認めている。もともと、特定秘密法には「何が秘密かは、秘密」にするという項目あるのだが、情報漏えいの防げない時代への錯誤がある。
 いずれにしても、文芸同人誌が意見表明の媒体として、作用し始めたことを指摘したい。優れた社会評論で一般人の読者を得れば、それはそこに掲載された文芸作品の読者層を広げることになるのではないか。
発行事務局=〒463?0013名古屋市守山区木幡中3丁目4?27、中村方、「弦」の会。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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「海」14号(大宰府市)

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2015年7月 8日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌はどれも充実した作品ばかりで、内容の濃さに感銘を受ける。主宰者の有森信二氏の創作力と同人誌への情熱には畏敬するしかない。小説の青春ものも共感したり感じることがあるが、ここではその他の作品について触れることにする。
【「ある患者の手記 第1回―癌の一症例」赤木健介】
 本編の作者は、前号の作品「いつの日か流離いの」では、永山則夫をモデルにした小説を書いている。事実をもとに資料をひもとき、個性的な犯罪者の精神性に迫るもので、いわゆる事件の意味を問いかける問題作であった。その後、元少年Aの「絶歌」が刊行されたので、いまだに印象が強い。
 今回は、自己の病と病院との関係をリアルに、正確に伝えようとするドキュメンタリーである。私自身、15年前、前立腺がんの宣告を受け手術。そこで、退院する間際になって、尿道が腫れてふさがる事態が出る。そのため、入院が伸びた。私のアレルギー体質が原因ということで、尿道の腫れが引くまで、栓付カテーテルをつけたままで、社会生活を送った。その後、再発の懸念がでて、生検で入院。以来、再発を監視する定期健診をしている。
 ここでは、次々と病気の予兆が出た場合の病院と医師の関係に患者が振り回される不可解な実態が、詳しく書かれている。セカンドオピニオンの医師と患者の感情的なこじれの問題にも触れている。同様の経験をされた方も多いであろう。これからの人にも参考になるはず。自分は三人、四人の医師に話を聞いて、医師の機嫌など無視して、自分の判断材料にしている。ここでは入院のベッドでの腰痛対策など、野球の球が役に立つという経験が記され、その手があったかと納得。いずれにしても、文芸同人誌の現実離れした建前に沿わずに、こうした高齢者に役立つ情報提供の可能性を示している。
【「あちらこちら文学散歩」井本元義】
 これは、作者のブログにも多くあるフランス・パリの話である。自分は、外国に行ったことがないので、気分転換に井本氏のブログ文学散歩は読んでいる。どういうわけか、生活環境のレベルの低い自分であるのに、このような、高尚な世界の文学ガイドが好きである。シムノンも好きで読むし、デラコルタも好き。ノワールものもかなり読む。画家もユトリロは伝記まで読んでいる。そこに少しずれがあるが...。ここではヴェルレーヌの人生を知らされてびっくり。上田敏の訳詩にはそんな気配は微塵もないから。辻邦生に対する感情も当初はなにか、うん臭さ付きまとった感じで、同感した。とにかく、ユーゴー、ヘミングウエイ、ヴィヨンなど、あらためてパリの文学者世界の含蓄の深さを教えられる。これを読むと、パリってどんな都なの? と新しい興味が湧いてくる。良い文学ガイドだと思う。パリ生活を楽しむ作者が羨ましいと思うが、身分相応に国内の変化の激しい土地散歩もそれなりに面白いので、読むだけで、まんざらでもない満足感が得られる。
発行所=818?0101=大宰府市観世音寺1‐15‐33.松本方。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:海(第二期)

「奏」30号(静岡市)2015夏

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2015年7月 7日 (火)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「性素な女学芸員の後悔と友情」小坪直】
 男社会色の強い世界では、女性の存在が性的空間を作り出す。主人公の理恵という女性の音楽会での鑑賞や、日常のなかの下村という男との交流を話のタネにしている。同級の下村という男がその後、性の産業界の仕事に関係したということを素材にする。小説にしない形の小説で性的空間を浮かびあがらそうという試みか。もともと性的空間というのは具体的な性と直結しないでも存在する。それを具体的な性の世界と心的なエロスをつなげているのだが、小説とは情念と欲望の共感をもって、面白く読ませるようするものであろう。ここではその小説の素因を抜き取って、思考でのエロスを考えさせるような気配の出来上がりとなった。性を「知」でとらえたのかというと、論理的展開がみられない、かといって先にのべたような情念の欲望には、小説的な表現をしない。バタイユのエロチシズム感に迫れば、と求めるのは贅沢か。こんな書き方もできると考えさせるのが面白いと言えるかもしれない。
【「堀辰雄をめぐる本たち?―笹沢美明『リルケの愛と恐怖』戸塚学」
 まず堀辰雄の「風立ちぬ」は代表作だが、文学ファンの間では、しばらくこの作品の有名な台詞「風立ちぬ、いざ生きめやも」が、日本語の文法に合っていのか、いや詩であるから美しい言葉であるから良いとか、もともと誤訳であるという話題が続いた。このことでも、堀辰雄がフランス語やドイツ語に詳しかったということがわかる。
 これは堀辰雄がリルケにも関心があったこと、その友人で詩人・翻訳者の笹沢美明との交流が記されている。その笹沢の息子が、ミステリー人気作家であった笹沢佐保であるという。笹沢佐保といえば、「あっしには、関わりのねえことでござんす」というセリフの木枯らし紋次郎の小説の作者である。彼も「詩人の家」という私小説的作品で父のことを記していること書かれている。笹沢佐保は、女優の富士真奈美と深い恋愛関係になったが、お役所勤めで小説を書いていた下積み時代に彼を支えた夫人と、別れることをしなかった、と下積み時代の彼を知る人から聞いたことがある。
【「堀辰雄旧蔵書洋書の調査(七)プルースト?」戸塚学】
 どういうわけか、転居のために捨て私が捨てたつもりでいた本、堀多恵子随筆集「葉鶏頭」が残っていたのである。それに関係するので、興味をそそられた。これは堀辰雄が創作にもっとも影響を受けたであろうと思われるプルーストの翻訳ノートの書き起こしらしい。プルーストの原書は、神西清の提供による。というのも両家の交流の深さを物語っている。想い出のなかの一時間はただの一時間ではないと文学表現に時間のスローモーション化を取り入れたプルーストから堀辰雄が何を吸収したのか、興味は尽きない。この草稿は、科学研究学術研究助成基金助成金による若手研究Bにおける成果の一部だという。粋な研究支援組織のあることに感心させられた。
発行所=420?0881静岡市葵区北安東1‐9‐12、勝呂奏方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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