2015年6月アーカイブ

「海」91号(いなべ市)

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2015年6月25日 (木)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【追悼・間瀬昇】
 1966年に本誌「海」を創刊した医師の間瀬昇氏の同人による追悼記事が充実している。なかに「海」の20年を記念して、編集部・一見幸次氏と芝豪氏による間瀬昇主宰者へのインタビュー記事が再録されている。芝氏が「このごろの作品でいえば、読んでいてもちっとも感動がない、もちろん参考にもならない、ただ時間をつぶしただけというのが多くなってきていて、昔ほど熱心に新しい作品を漁ったりしなくなったですね」という。それに対し間瀬主宰者は、「それはどういう文芸雑誌を読んでも言えますね(中略)としながら、しかし、ないことはないと石井仁、玉貫寛という人のもの、吉村昭「冷い夏、暑い夏」などもそれに近いものですが、やはり、さしせまった死に対する感じ方、見つめ方、たじろがずに書いている、というものには感動させられます。」とし、自身の体験からいえば、「書きたいと思うのは、精一杯やった時代ということで、青春時代をテーマにして、というもの。ところが書き尽くしてしまうと、無理してでも何かを書いていくしかない、という面もなきにしもあらず、です。書く人の業といったようなものがね」という箇所がある。現在でもこのような状況があるのではないか、とひとつの公理としてこれが続くのかも知れないと、感じた。
【「斗馬の叫び」国府正昭】
 児童虐待で幼い命が失われていく事件は、毎年何件かが報じられている。これは、そうした事件を、新米の新聞記者が取材し、短い記事として誌面に載る過程を描く話。視点は、必ずしもその記者だけとは限らず、関係者の目を通しても語られる。社会的な問題意識が重い効果を生んでいる。
【「砂利ぶるい」宇梶紀夫】
 鬼怒川物というのか、このところ地域性にこだわった作品を発表している。警察官をしていた主人公の兄が、大平洋戦争での米軍の空襲で機銃掃射を受け、死ぬ。戦後の復興で鬼怒川の砂利が盛んに掘られる。それから弟は、兄嫁と結婚することになる。かつては、よくあった出来事だが、地道に生きる人々の生活ぶりを描いて、感慨を生む。
発行所=〒511?0284三重県いなべ市大安町梅戸2321?1、遠藤方。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

カテゴリー:海(いなべ市)

「石榴」16号(広島市)

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2015年6月22日 (月)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「浜辺歌」木戸博子】
 人生の斜陽の一光景を、若き過去の煩悩に満ちた時期の出来事と結び付けて描いたちょっと変わった趣向の作品である。主人公の私は、「生まれ故郷でひとり息子を待つ母親は惚けている。(中略)ああ、弱きもの、汝は男なり。げに恐ろしきは女なり。まったくもって六十にもなって、つれあいに去られるとは! しかも彼女の相手は私と同い年の同性ときている!」という状況にある。
 母親のいるのは港町なのだろうか、新潟に向かう船のなかで、泣いている女子大生に会い、声をかけて知り合いになる。そこで、若い頃に灯篭流しを見物しにいった浜辺で泳いで溺れて意識不明になるが、住民に助けられた昔ばなしをする。動機に自死への試みに近いものを感じさせる。と筋を語ってもきりがないが、話の時代の流行歌やポップスの歌詞を挟み込んで、郷愁と滅びの情感をうまく醸し出している。凋落感を軸にし、小説を読む慰みという意味での面白いものがある。主人公は男性であるが、作者の視線には男の持つ莫迦げたロマンとは一線を画す、女性特有の現実的な視線を感じるものがある。
 また、夜の港に着いて「引き潮で露出した岸壁には海草や藤壺が張りつき、あたりには女の秘部の匂いに似た悩ましい潮の香りが激しく漂っていた」という独特の感覚の比喩に驚かされた。自分は地元の銭湯に良く行くが、温泉の黒湯というのに入る。その時に何か懐かしいような、どこかで知ったような不思議な匂いを感じていた。この部分で、私は磯の香りとの関連がそこにあるのかも知れないと、腑に落ちるような気がした。
【「サブミナル湾流」?篠田賢治】
 連載で?があるのだろうが、前編が短かったのか、記憶がおぼろげである。それでも、これは文章が楽しめた。謎めいたシーサイドエリアでの事件を、哲学的な用語をふんだんに使いまわした文章力に舌を巻いた。ちょっと視線設定は異なるが、ガルシア・マルケス的な味に通じる格別な面白さがある。文芸味を堪能したい文学書好きにはおすすめ。
発行所=〒739?1742広島市安佐北区亀崎2?16?7、「石榴編集室」。
紹介者=「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:石榴

「群系」第34号(東京)

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2015年6月 1日 (月)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 文芸評論が中心の同人雑誌で、今号では昭和戦後文学―日本近代の検証(4)となっている。ざっと目次をみても、対象は昭和時代文学の代表的作家の多くに及ぶ。これらの作家の作品をすべて読んだことのある人は、それほど存在しないであろう。文学に精通した尖った読者に向けたものになっている。そのなかで、杉浦信夫「弁護士の闇」については、ジャーナリズム性の視点から≪日弁連の状況追及!「弁護士の闇」杉浦信夫氏≫で記している。ただし、小説もいくつかある。
【「山口二矢」大堀敏晴】
 1960年、当時の日本社会党浅沼委員長を暗殺した山口二矢。その後、少年鑑別所で自死した。その二矢の母親が、少年期の息子を回想する内容。読み手の自分は、ほとんど同年令であったため、当時は自死という行為にも関心を強く持ったものだ。これを読んでも、人間は愚行をするものだと思った当時の印象は変わらない。赤尾敏との関係も記されている。両親や兄との関係は知らなかった。自分は、革新政党や右翼などからの働きかけで内情の一部を知ることで、政治が金で動くということを感じ、資本の論理に関心を高めたことを思い出させた。本作品では、二矢が大義に死ぬことに意味を見いだし、後悔しないという供述がある。ニヒリズムであるが、自分も思春期ニヒリズムに陥った。だが、何もしないでぐずぐずしていることのメリットを見つけ出していくことで、長生きをすることになった。
【「会長ファイル2『謝罪文』小野友貴枝」】
 「地域福祉センター」の会長に就任した主人公の組織改革と職員のまとめ役の気苦労というと変だが、問題解決事例がわかりやすく描かれている。設立の経緯がGHQによるものというのは、初耳で驚いた。まず興味を持たせる。自分は、まだ介護制度のない時期に、親の介護用に福祉センターからベッドや車いすを借りて済ました。作品では、市議会議員がベッドを3台も借りようとしたところ職員の応対が悪いとクレームをつけてくる。政治家の存在が、公的な施設での厄介者となる。その謝罪文を書けというので書いたが、それだけではおさまらない。その応対に悩まされ、神経を病む職員の姿。さらに、職員が倉庫の整理をしないので会長が気をやむところなど、いろいろありそうな話で面白い。お役所や公的施設での小説では、管理する側の視線から描かれたものが少ない。貴重な題材をうまく書きこなして問題提起になっている。新分野開拓の素材かも知れない。
【「落とし穴―肥前島原の大名有馬氏」柿崎一】
 キリシタン宗教戦争「島原の乱」のなかで、勢力を失っていく有馬家がその決断と手際の悪さが、ほそぼそと存続を維持する話らしい。ぐずぐずすることは、場合によって、問題解決になるといことであろうか。
【「二十年後」高岡啓次郎】
 幻想味の強いホラー小説。理髪店の雰囲気描写が良い。手順よく描かれていて、面白がらせる。
【「峠道」五十嵐亨】
 これもホラー小説。映画のシナリオのように整然として、セオリー通りだが、丁寧に書いているので、あらかじめ予測できても怖い。霊体となった亡霊が腐敗肉の絡んだ白骨という描写に、唯物的な感じがして異色感があった。ただ、そこまでするならば、筋肉が機能せずに、顎を動かすのに不自由して、言葉が明瞭でないところまでいけば、不合理のなかの合理性がでるのではないだろうか。
編集部=136?0072江東区大島7‐28‐1‐1336、永野方、「群系」の会。
紹介者=「詩人回廊」北一郎

カテゴリー:群系

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