2014年8月アーカイブ

「海馬」第37号(芦屋市)

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2014年8月28日 (木)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「彼」山下定雄】
 この作品は「ある精神病日記」として、連載六回目のようだ。前の号から贈られてきているように思う。この作品は記憶にある。前号から、自転車を修理しすると鉄棒の話が延々と続く。前後のいきさつをしらないまま、世間話でも聞くように読んでしまう。腰の据わった同人誌作家のように思う。
 梶井基次郎は、プルーストの大長編「失われた時をもとめて」の翻訳を読んで、腰の据わった作家と称している。出版記念に向けて、次のように記している。
 「親近と拒絶」より。「プルウストの文章はプルウストの話し方が少し難かしい上に、今云つたインテイメイトな話し方で、大層譯すのに困難な長いセンテンスを持つてゐるやうだ。そこへまた今云つた聖人の名だとか、お菓子の名だとか、僕達がそれに相應した心像を持つてゐない名が二つ三つ行列してはひつて來るともう駄目で、到底一度では意味の通らない文章になつてしまふ。僕はこの誌上出版記念の會へ顏出しするために是非一と通りは讀んでしまひ度かつたのだが、文章のさういふところがかたまつて出て來るとついほかのことを考へてしまつて大層進みが惡かつた。また無理にこんな本を讀んでしまひ度くもないので、回想の甘美な氣持に堪へなくなつて來ると遠慮なく頁から眼を離し、かういふ人間のものを讀んでゐるとどこまで此方の素朴な經驗の世界が侵されてしまふかわからないと思ふとまた本を閉ぢてしまふのだ。」
 「彼」は、短編連作なので、そこまで負担はないが、とにかく文学活動の精神を感じるのだ。
 他の作家たちの作品もあるが、みな文章に落ち着きがあって、読んで安心ができるものばかり。ただ当方で、まとめて紹介できるような筆力がない。
編集事務局=〒659?0053芦屋市松浜町5?15?712、小坂方「海馬文学会」
 紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

カテゴリー:海馬

「さくさく」第59号

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2014年8月14日 (木)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

「文学市場」のいま
 文芸同人誌 「さくさく」第59号の編集後記(坂本和子)には、次のようなことが記されている。――(前略)声はストレートに響きますが、文字になった言葉はなかなか伝わりません。
 それなのになぜ文字に刻み、言葉を表すのでしょうか。それは、文字によってしか伝わらないものがあるからです。文字によってしか伝わらないもの、それはあなたが今書こうとしているその文章です。――
 小説17編、随筆5編、評論等3編。304頁に詰め込まれた作品群は圧巻です。
  たとえば小説の戸田哲也「コスモス」は、 幼いころから好きだった女友達の事を書いた作品。彼女の夫に剣道を個人指導された私。
 その美恵子が突然亡くなる。祭壇に飾られた遺影と湖をみた私は夫が沈めたと確信する。愛する妻を湖底に沈めた夫への疑惑。ミステリーを残した余韻に感心しました。
 「さくさく」誌は、年三回刊の活発な活動を行なう文芸同人会「文学市場」の会員は創作意欲が盛んである。(発行所=東京都台東区三筋1-4-1-703 「文学市場)
 その上息の長い連載をする人もいる。読書感想と映画紹介の二つを30回以上続ける例もある。
 池袋勤労福祉会館を例会拠点に東京で活動する地の利も有ろう。若者も多い会である。
 坂本代表が(旧新日本文学学校)文芸学校講師なので受講生からの入会も有るのだろう。
 三十年前に私は池袋で「慧の会」と言う同人会を行っていた。その時以来の交際である。
 私が相模原市に転居「慧の会」会員の半数は「文学市場」に移り活動している。

「群系」第33号(東京)

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2014年8月10日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【小説「会長ファイル・福祉バス」小野由貴枝】
 社団法人・地域福祉センター長である英田真希の一年間の行動が描かれている。県庁を定年後に就任して二年目の正月の神社参拝時の決意から翌年の参拝前日まで。
 行政の地域高齢者施策を請け負うセンター12名を管理し運営を先導する主人公。事業の大半を占める福祉バス運行を廃止する決意と実践の記録的作品である。
 澤事務局長である大曾根班長の二人を説得しセンター再生へ前向きに行動する女性。組織のトップで行動する女性から男社会・行政内部を書いた事にわたしは注目した。
 お役所仕事で絡められた事なかれ主義男性幹部達とのやり取りは迫力がある。25枚程度に纏め、行動進捗を時系列で追う記録風な仕立てが読みやすい。
 その中に女性視点と内面描写を入れて文芸作品とした著者異色の一作になっている。多分、多くの読者に小説としてより行政施策の内部仕組みに興味が持たれるであろう。
 となると、税金使途に厳しい読者からは別の感想も出る可能性がありそうだ。作者に近い主人公を思わせる書きぶりはそのあたりの事に鈍感とも感じた。
 重圧をはねのけ行動する女性を描写する意図が題材に阻まれる危険がある。老人ホームでの虐待などの記事も多い昨今、文学作品として読まれるだろうか? 
「群系」発行編集部=江東区大島7?28?1?1336 永野悟方、「群系の会」
紹介者=「詩人回廊」外狩雅巳

カテゴリー:群系

「みなせ」第63号(秦野市)

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2014年8月 7日 (木)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「山のつむじ風―神サマ常次郎(1)」小柏正弘】
 自由民権運動の広まりの中で起きた群馬事件(明治17年)を記録風に書き起こしている。今回は初回で百枚。著者の縁者なのか小柏常次郎と言う騒乱の首謀者が主人公である。ドキュメントタッチで臨場感のある風物・人物の描写も多用。調査も豊富に活用している。ノンフィクションとジャンルを明確化する作者はやはり主人公の縁者だと推測できる。明治維新が政変か革命かを問う論評や作品は多いが当時の農民の視点で書かれている。群衆個々に名指しで生活と行動を書き連ねる手法は引き込込まれた。
 草の根の思想と行動は明治初期の日本の実態を浮き上がらせ成功している。フランス革命等の西欧事情がどう日本で浸透し展開したかが分かり力作と感じさせる。
【「オブジェクション143」岡森利幸】ニュース紹介と解説風の評論である。筆者は、これまで毎号距離を置いて書いていたが、今回は少し踏み込んで、八編の事件を紹介している。その一つ、都議会での女性議員への野次については大いに持論を展開している。「女が腐れば男がすたる」の一文で論を閉じている。
発行所=事務局・編集??神奈川県秦野市南ヶ丘5?3?16、岡森利幸方「みなせ文芸の会」
紹介者=「詩人回廊」外狩雅巳

8月3日に季刊遠近53号の合評会をしました。本号の合評は7月例会、8月例会の2回で終了しました。いつもの通り、私の読後感をここの掲載します。例によって、私の独断、偏見に満ちたものですが、ナナメ読みして頂ければ幸甚です。

【「ムーランルージュの裏口」花島真樹子】
 持田梨枝子が主人公で、他にキキという野良猫、梨枝子と一緒にパリ公演のために公募したダンシングチーム「ラ・レビュージャポネ」のメンバーとしてきた洋子、ラ・レビュージャポネの団長の妻の弥生である。猫は梨枝子の独白を聞かせるための役割なので実質3人だ。したがって、ストーリーもシンプルで、パリに残るという洋子に対し、はずみで自分も残るといった梨枝子が、実際は残るつもりはないことについての呵責に苦しめられるといった内容である。エピソード風にシャイヨ宮での阿波踊り、群舞「藤娘」の代役という大役を演じることなどがあるが、これはパリ公演が楽しかったということを強調するため付録であろう。
 読みながら感じたのは、梨枝子の呵責の念が読者に伝わってこないのである。文章で「呵責で胸がいっぱいになる」「頼りにしていた洋子の落胆はどれほどだったろう」と書いても読者に伝わらなければ意味がない。何故読者の心を捉えないのか。
 23歳の洋子は出発時から日本に帰らないと決めているほど強い心を持っている女性である。梨枝子は洋子より3つ年上といっても、今まで経験した苦労が格段に違う。梨枝子がパリに残りたいといっても、洋子が芯から信じるとは思えない。パスポートや労働手帳があるからといってもいろいろな手続きがいる。洋子は日本を出る前から十分に調べていたことだろう。もちろん、梨枝子がパリに残ると心強いだろう。「・・・ナイトクラブの仕事もデュエットの方がいいし、・・・家賃も必要経費もワリカン・・」といっているが、これは梨枝子が残っても梨枝子も楽だ、といっているとみてもいい。
 次に契約のことであるが、出発時から帰国までが契約期間となっていると条項にあるというが、がそれはそれで正しいだろう。しかし、「帰国まで」というのは、団員をパリから日本までの帰国はラ・レビュージャポネが責任を持つという意味で、むしろ団員の権利についての条項といっていい。文中にもあるように、団長が承認すればラ・レビュージャポネの日本に連れて帰る債務はなくなるのである。洋子は成年者であり、契約する能力がある以上、本人の承認だけでいい。洋子の養父や養母が保証人になっている可能性は考えられるが、この保証は身元保証程度ではないか。本人が帰国しないといって保証人が損害賠償を起こすとは考えられない。保証人には何の損害も発生していないからである。ここでは法律論は避けるが、洋子はラ・レビュージャポネの許可を得て、映画出演さえしているのである。洋子は契約内容を十分理解しているとみていい。実際、現地では弥生がいろいろ言ったかもしれないが、それは帰国しないなら、航空賃の確定のために早く教えて欲しいからだろう。
 以上述べたように、作者は契約書を使うことによりリアリティを持たせているつもりだろうが、私は却って契約書を使ったことにより、この作品のリアリティが感じられなくなってしまった。
 一般論ではあるが、作品の中で音楽、歴史、哲学、法律といった分野につて作触れ、または重要な役割を持たせる場合、専門家が読んでも一応納得できるぐらいの掘り下げが必要である。十分な掘り下げがない場合、読者を馬鹿にしているか、作者の無知をさらけ出しているかのいずれかである。作品を作るときは十分に気を付けたい。
 「藤娘」の代役の話などをうまく使い、ラ・レビュージャポネ内での嫉妬や足の引っ張り合いなどを書いた方がよかったのではないか。

【「すばらしき孤立死」逆井三三】
 まず、題名について触れたい。何故「孤独死」でなく「孤立死」なんだろうか。公共団体の職員で、「孤独死」と「孤立死」は違うという人がいる。厚生労働省が「孤立死」を通達などで流したので役人は使い分けていると考えられる。同じ公共団体でも、札幌市では「孤独死」と「孤立死」の区別は分からないといっている。NHKのTV放送は「孤独死」といっている。私自身「孤独死」と「孤立死」の区別は分からない。多くの人にとっても「孤独死」と「孤立死」の違いは分からないのではないだろうか。
 主人公は唐沢太志(文中では「太志」)で、智子という女性と結婚したが、現在は離婚し、2人の子供もいる。翼荘という介護付き高齢者向け賃貸住宅に住んでいる。ここには程度資産、年金などがないと入居できない。ランクが上の世界である。太志は、金は不自由しないくらいあり、風俗店で美鈴を指名し、よく行く。息子の浩一は30歳を過ぎているが定職についていない。二男の英二は出版関係の会社に勤めていたが、今はフリーライターだ。これだけの人間関係だが、読んでみても太志がどんな人間なのかよく分からない。集会に来た議員に突然太志は「金融緩和をすぐやめさせろ」という。こういった発言をするので経済知識があるのかと思うと、そういった片鱗は見えない。「くだらない演説などしないで、若い女の子でも世話して欲しいよ」などと集会の席でいう。
 作者がこういった主人公を敢えて書いたのだろうが、この主人公に感情移入することはできない。もちろん感情移入できな主人公の作品はあってもいい。が、この作品に原稿用紙120枚書く意味があるのかといいたい。
 文中の「美鈴の口で射精した」(88頁上段)、「抜きたい日ではなかった」(95頁上段)と書く。一方で「美鈴ちゃん、・・・くんくん鼻を鳴らしてきた豚と思わなくては」(95頁下段)などと説教もする。最後まで読んでも、原稿用紙120枚も使って何を書きたかったのかよく分からなかった。

【「春の雪」難波田節子】
 この作者の今までの作品と全く違い、これが「作品」といえるのかとさえ思った。まず、作品で最低限要求される起承転結がない。そればかりではなく、文中で作品を左右するような間違いがいくつかある。文言の問題ではない。例えば128頁下段の「性格」は「正確」の変換ミスだということは誰が読んでも分かる。ここで私はそういったことを指摘しようとしているのではない。順を追って書いてみよう。
 127頁上段の役員会の雰囲気(「・・・遠慮なく喋りあえる・・・気楽さは、酒の味まで違うらしい」)についてあまりに表面的にしか見ていないのではないか。私が経験した自治会役員会の後の飲み会は、1人か2人だけが喋り、他の人は聞き役みたいだった。女性は飲み会に参加しなくなり、いつの間にか飲み会は消滅した。
 129頁上段の「麦粒腫」は最初何のことか分からなかった。辞書を引いて一般的に言われているモノモライと知った。どうしてモノモライと書かなかったのだろう。ストーリーの展開(医療小説や医療関係者が主体の小説)でモノモライをあえて麦粒腫と書くことはあろう。その場合、文中で説明するのではないだろうか。
 132頁下段の凍傷についての応急手当は間違えている。インターネットで調べても、また、多くの家庭にある「家庭の医学」を開いても、凍傷の応急措置で掛かりかけた部分を「揉む」とは書いてない。私はこの部分を読んだ途端に間違いと気が付いた。あまり高くない温度で温めるのが基本の筈である。むしろ揉んではいけないのだ。宿泊しているところは山中湖の宿である。湯も沸いているだろうし、宿の人は凍傷の応急手当ぐらいは誰でも知っていると思う。
 140頁上段の「計画停電」だが、東日本大震災の年の一時期、計画停電があったところもあるが、その年の冬季には計画停電はなかった。翌年の夏季に北海道電力、関西電力、四国電力、九州電力などは検討されたが、実施されなかった筈だ。
 この作者のいままでの作品の多くは家庭小説だったので、こういった破たんはあまり感じられなかったが、今回の作品は素材として使ったものが重要な役割を果たしているので、作品全体の質を低下させているといっていい。フィクションだから何を書いてもいいというものではなく、作者は自分の文章の細部まで責任を持つべきと考える。北方謙三は、渡辺淳一に「小説は頭で書くな」といわれたという(2014.7.29.読売朝刊)。この作品は頭だけで書いた小説の典型だと思う。私は文章を書くとき意識していることは、文章のすべてに責任を持つということである。そのためにはいろいろな面からチェックする。それが文章を書く者の最低限の心得と考える。

カテゴリー:季刊・遠近

2014年8月 4日 (月)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌は、同人17人中12人が仙台市在住の宮城県を代表する文芸同人誌である。小説三篇・詩七編・随想四編が98頁に納められている。
 編集後記にはこう記されている。「当誌が創刊五十年を迎えたことは前号に記したが、宮城県芸術協会も創刊五十周年を迎えている。(中略)会員六十数名による宮城県詩人会がある。当誌同人も七名が加入していて、今年十周年を迎えた(以下略)」
【「偽装自殺をした男」牛島富実二】70枚の作品を興味深く読んだ。戊辰戦争時の仙台藩における内情を書いている。軍の総指揮官である松本要人を主人公にした歴史小説。東北の各藩が同盟して明治政府軍と戦った歴史を仙台藩から見た作品である。
  藩の降伏後は身代りによる偽装自殺で生き延びた史実が小説風に作られている。主人公や妻の人間味ある描写についつい引き寄せられて読み入ってしまった。
発行所=仙台市泉区向陽台4?3?20、牛島富美二「仙台文学の会」
紹介者=「詩人回廊」外狩雅巳

カテゴリー:仙台文学

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