2014年4月アーカイブ

2014年4月27日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「高円寺の家」小野友貴枝】
  同人雑誌作品としては長編の200枚に及ぶ小説です。作者渾身の力作であるな、と思いながら読みました。内容は、夫の家庭内暴力に苦しむ中年の妻を主人公にしています。昔の恋人との再会が絡みます。
 松井麗子からの夫松井恵弘の関係記述が三分の二に及んでいる。夫の視点からは、わずかですが描かれています。
  昔の恋人、家庭教師であったの笹森航太の視点からの記述が二割程度あります。妻の笹森佐和との事も少し描かれます。青春期に英語を習い肉体関係に及んだ笹森との再会から、ふたりの関係修復に至るお話が中心になっています。
 現在は、学校教師となっている麗子は、事に生きています。機会があり大学準教師の職を掴み取り意欲的に生きています。定年後、家庭に籠る夫の暴力傾向は強まり、子供たちも寄り付きません。別居から離婚を願望中です。
 通勤電車での笹森との再会がこの作品を加速させます。二人の身体が結びつくのは必然として書かれます。
  笹森のセカンドハウスに住み、夫と別居する麗子です。そこで病弱な笹森の妻・佐和が亡くなります。夫の暴力描写が繰り返し書かれます。麗子の心象風景も多く作者の意図が良く分かります。
  ハッピーエンドは中年女の本音のメルヘンとして読者も共感してしまいます。閉ざされた世界の作品です。
  医療の世界・そしてキャリァウーマンの世界。男女の性愛関係。作者は得意分野で存分に書きました。
 女流なので麗子に密着し、長くと書き込む部分は厚みとして理解しますが、もう少し刈り込んだ方が良いような気もします。どうでしょう。文章は判り易く読者が入り込めるように工夫されています。会話も地の文も書き慣れた安定感があります。
  家庭教師であった航太との青春時代の描写は力づくでこなしています。恩返しに身体を提供したということになっていますね。再会し肉体関係へと進む筋書きは作者の思い入れが強く出来過ぎた話として読まれる危険性ありですね。
  題名にある「家」については深い考察が書き込まれています。暴力描写はもっと凄惨でも良いかなとも思えるところがあります。それでも、力作です。二人だけの同人会誌に掲載するだけで消費されるのは残念ですね。
 発行所=〒257?0003秦野市南矢名1?5?13?4F、秦野文学同人会。
 紹介者=「詩人回廊」外刈雅巳。
 追記=本作品は、町田文芸交流会発足の最初の合同合評会対象作品です。町田文芸交流会で外部の読者の感想を得る事は大いに作者の励みになるでしょう。今後も多くの同人会グループの作品が読まれ議論され、伊藤昭一氏の視点で得るものがある事も期待します。

「照葉樹?期」第5号

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<2014年 4月21日(月)付、「文芸同人誌案内」掲示板より転載・投稿者:kitaohi>

【「順平記 その二『リュウ』」水木怜】
順平がコンビニで万引きをする少年のあとをつけ、那珂川沿いのベンチで話しかける。少年は小学校4年生で10歳、名前は増田龍平という。順平はその少年をリュウと呼ぶというと、いいという。リュウはいじめにあっているのだが、母親には言わないでくれという。順平は母親の勤め先を調べ様子を見に行くが、母親にリュウに親切にしてくれる人だと見破られてしまう。母親は塔子といい、リュウのこと、自分の事などを順平にに話す。作品を読んでいてホロリとする。いい作品と思うが、リュウのIQが150なので強い人間に育てるという設定になっているのが気にかかる。IQは並の小学生に設定して、その小学生を突き放すようにしながら、強くなるように育てるというストーリーの方が良かったように思う。IQが高くなくても、強く育てるのが母親ではないだろうか。子育てはその子のIQに関係がないと私は思っている。
とはいっても、心温まるいい作品である。

カテゴリー:照葉樹・二期

2014年4月18日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「今度の日曜日に」堀井清】
 会話を括弧にせずに、シナリオのように表現しながら、運びの巧い文体で、読みやすい。まるで大人向けのライトノベルのようだ。家庭の出来事を会話の形で描くのだが、同居していても、会話があってもそのつながりは危うい。独居していた主人公の父親は、ちょっと訪問に間をあけていたら、死んでいるのがみつかる。死ぬ時にそばにだれもいないと孤独死という。文体は軽やかであるが、親子、夫婦の関係の在り方、死生感と、中味は重い。ライトノベルにも重いテーマがある。独自の文体の習熟を生かして、意欲的な表現法で、技術がそれに伴っている。なるほどこのような書き方もあるかと、興味深く読んだ。
【「神島行き」佐藤和恵】
 三島由紀夫の「潮騒」の舞台となった神島を散策した話で、短歌をはさみながら、観光をする。三島はすでに文学的な象徴になっていることを感じさせる。楽しめる散文である。
??潮騒に神風混じるこの島にMISIMAの濡れた足取りを追う??(いいね)
?まろやかな石の鼻づら唐獅子は初枝と新治の恋を嗅ぎとる??(いいね)
??灯台へ監的哨へと通ゐし青年MISHIMAの海の肉体??(いいね)
「潮騒」は、ギリシャ人作家ロンゴスの「ダフニスとクロエ」の日本版。それより先にフランスでコレットがブルターニュを舞台に「青い麦」を書いている。文学散歩のなかで、作者が二度神島にきていると書いている。見事に日本流に作り上げた特別な意気込みが感じられるのは、やはり熱を入れていたのだな、とわかったりする。短歌も文学性の香りがして良いが、終わりも方も洒落ていて楽しい。
発行所=愛知県東海市加木屋町泡池11‐318、三田村方。文芸中部の会。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

カテゴリー:文芸中部

2014年4月16日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「代役」杵淵賢次】
 主人公の神門守次は、ある日、公安からの連絡で、自分と同姓同名の警察官がオーム真理教の関連宗教団体アレフの団体に入って、潜入調査をしていることを知らされる。そこで、アレフの関係にそれがわかって、同名の主人公が狙われる恐れがあるという。神門はかつて那須の別荘の工事人にアレフ関係者が入り込んでいたことで、公安と接触があったらしい。そこから公安検察の捜査に巻き込まれる。
 実際の事件とフィクションをからませているが、内容はフクションである。公安とアレフの潜伏活動の応酬が陰で行われている出来事に関係させられた市民。作者の目の付けどころが面白い。現代社会の表と裏の、不可解で曖昧な不気味な部分をなぞるような話になっている。
 現代人は、社会のどこかに見えないものが意図的に隠されているのではないか?という疑惑に取りつかれているというか、思いたがる傾向に見合った題材である。
【「ジャスミンの鉢―S町コーヒー店・第16回(最終回)」坂本順子】
 行きつけのコーヒーショップに客として入って、そこで他の客やマスターとの会話や様子を観察。その人たちの人生模様や生活態度を描くという設定で、16回も連作して最終回まで書き切った。安定した力量で、最初の企画段階ですでに成功を約束されたようなものであったかも知れない。
 NHKのテレビでも、これに設定が似たようなドラマ「珈琲店の人々」というのをやっているようだ。製作者は、3カ月や半年は、面倒な新企画を考えないで済むようなものを持ちたいと思うのであろう。制約のある設定はその点でかえってやり易さがある。脚本家の交代も利く。そういうものに対応できるような企画物を同人雑誌で読むとは思わなかったので、特筆した。
〒286?0201千葉県富里市日吉台5?34?2、小川方。なんじゃもんじゃの会。

カテゴリー:文藝誌「なんじゃもんじゃ」

2014年4月 4日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「カンナの恋・続編」眉山葉子】
 雑誌の名前は忘れても、個性のある書き手は記憶に残るもので、「カンナの恋」という小説は強い印象があって、その続きがあるのか、と思い読んだ。中年女性のカンナの恋心と気分が闊達な筆運びで、表現され退屈させることがない。理屈を超えた心の華やぎで読者を楽しませる。
【「歳月はその輪郭を......」西野小枝子】
 かつて恋人だった男を奪われた主人公の諒子が、策略をもってその男の妻となった奈津と再会する。諒子の恨み心どうしてそうなったかの説明と、その過程がみっちり描かれる。じつは男は奈津と結婚してから間もなく亡くなる。奈津はほかにも同様のことをしていたらしく、今は後悔している。諒子に300万円の慰謝料を払って、その後をボランティアで活動をしているのを諒子は見る。こうあらすじを書くと、なるほどと思うが、作者はなんでもてんこ盛りで、奉仕精神などのテーマ性のある問題意識を複数盛り込むので、読んでいる最中はどうなるのやら見当もつかない思いがした。
【「老いの日々」山脇真紀】
 93歳になるは母親が亡くなるまで、実の娘が介護し大往生を遂げるまでを描く。この作品には短い章ごとに小見出しがついている。中味の伝えたいという気持ちが良く出ている。味わいの深いものになっている。
 私自身、所属の同人誌に寄稿することになり、埋め草で過去の作品を加筆してみたが、どうもただの事務的な文章で文学性がない。ただ、それには現在でも読んでほしい社会的な意見が反映されているので、内容ごとに小見出しを入れることにした。編集者は、経済記事みたいですね、といったが、それで通してもらったばかり。同じ工夫をしているという意味で、この作品が一番印象に残った。
 発行所=〒547?0015大阪市平野区長吉長原西4?7?24、西野方。マストの会。
紹介者「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:檣 マスト

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