2013年10月アーカイブ

2013年10月30日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「海神」有森信二】
 中学生の健治少年は、葉煙草栽培農家の長男で弟がいる。家業があると長男は、家内労働力として親からあてにされる。親にしてみれば、義務教育を出たらすぐ家業に精をだしてもらいたいわけである。父親は、高校へ通いたかったが、その父、主人公の祖父が若くして急死したため、進学をおきらめ家業を継いでいた。そういう経験があって、健治の進学を認める。健治には、同級生の留美子という恋人がいて、その思春期の恋愛が描かれる。
 強い筆致でバランスよく、戦後日本の経済成長期前の青春が描かれている。同じ作者が「幸福の歌」を執筆して、これは現代における経済成熟期における家庭の姿と青春を描いている。ここでは主人公の性格に時代性を反映させて描く。有森作品をすべて読んだわけではないが、自分の印象では、次の作品に伸び代を期待させるようなものがあるように読める。これが作家精神の若々しさによるものであるらしい。「海神」の終わり方にもそれが見える、集中力をもって作中に入り込む力が強い。もっともこれはほかの同人誌にみられる作風との相対的比較の上であるが。
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

カテゴリー:海(第二期)

「北狄」363号(青森市)

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2013年10月28日 (月)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【詩篇「月に沈む」倉谷ひろたか】
 東日本大震災を題材にした情念あふれる35の詩篇。藍碧の沈黙、地場の力、哀しき三日月、じごくのなぎさ、など自然力による郷土と命の破壊を、多角的な視線で、嘆き悲しむところにエネルギーを収斂させている。重厚さがある。
【「蛍火の島」青柳隼人】
 定年退職後に「蓮沼」という池のほとりにひとり住む男の生活ぶりを優れた散文精神で描く。「蓮沼」という沼を静謐環境描写をもって独自のイメージを形成する。、ありそうであり得ない神秘的なスポットに作り上げる。風景がそこにただあるのではなく、心が風物を映すことを示す文章。、晩年を迎え,社会活動から隔離したさびしい心境を浮き彫りにする。同時に生の向こう側の死が、断絶した無の世界ではなく、連続する出入り口として「蓮沼」が示されているようにも読める。高齢者社会での死への概念の変化を示すのかもしれない。
紹介者:「詩人回廊」北一郎

カテゴリー:北狄

「岩漿」21号(伊東市)

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2013年10月26日 (土)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本号は5月発行である。その間、ずっと手元に置いていた。なぜか、と自分でも不思議思って開くと、中に栞が挟んであって、その中の1編が読み終わっていない。そのままにしてあるのだ。読んでいる途中で用事があると中断し、また読むときは筋を忘れているので、最初から読み直し、また用事ができて中断し、再び読む時はまた筋を忘れているのだ。
【「八重桜」椎葉乙虫】
 大阪の造幣局の中の桜の名所は有名だが、そこで殺人事件が起きる。ミステリーである。かなり長い作品で、労作である。読むのに時間がかかった。同人誌にミステリーを書くのは、おそらく周囲からは評価されないであろうが、文章力の鍛錬にはなる。昔と違って、仕掛けやトリックに新規性がなく、犯人が出てくるのは決まっている。それで途中をキャラクターづくりで読ませるか、ひねりの利いた文章を使いまわす、とかしないと最後まで読んでくれない。中だるみを超えるのが大変で、その辺のスピードアップに工夫がいる。その工夫が書く方の隠れた楽しみでもある。よく粘って書いたなと感心する一方で、書く方も楽しいが読むのも楽しいというところでは、もうひと押し頑張ってほしいものがあった。
発行所=〒414-0031伊東市湯田町7-12リバーサイドヒグチ306 木内方、岩漿文学会編集部 
紹介者=「詩人回廊」編集人・伊藤昭一

カテゴリー:岩漿

「砂」第123号(東京)

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2013年10月 6日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「九蓮宝燈」木下隆】
 サラリーマンの村田幸治は、会社帰りに職場の仲間と麻雀の最中から小説が始まる。3年ほどの経験であるが、なんと「九蓮宝燈」をテンぱってしまうのだ。手が震え、動作がロボットのようにぎこちなくなる。この書き出しは素晴らしい。スリルと緊張感がたっぷりだ。そして、見事ロン牌が出た。あがりだ。これで、社内でやや軽んじられていた同僚の間で、一目置かれるようになる。高揚感にひたる。しかし、麻雀で同僚から大勝ちして金を巻き上げていることが課長に知られててしまう。やや不安になる。落ち込み感。そして、友人から「九蓮宝燈」をやった人は間もなく死ぬという都市伝説がある事を教えられる。阿佐田哲也も「麻雀放浪記」でその例を書いいている。えっ、となってがーんである。また緊張感。道を歩くにも、信号を渡るにも、細心の注意が必要だ。そんなある日、麻雀で夜遅く帰ると、駅の改札で赤ん坊を抱いた女が立っている。それは、アパートの鍵を失くした妻が、部屋に入れず寒空の下2時間も夫の帰りを待ち続けていたのだ。おお、なんという愛しくも切ない女心だ。しかも、彼女は家計をを切りまわすお金を紛失してしまっていた。村田は麻雀で得た金をそれに充当することにする――。めでたし、めでたしである。これは予想もしない予定調和の結末で、またびっくり。
 じつは私は、この「砂」の形ばかりの同人で、久しぶりに合評会に出たことがある。木下さんの前作を「よくできた作文」と評した。それというのも、彼が文芸作品を書きたいと言ったように思えたからである。それなら、これは作文で文芸ではない、と感想を述べたのである(実にへそまがりな自分である。友達ができないのが当然だ)。すると彼は不当な評価だと怒ってしまった。文章教室の講師も褒めたという。本当は良い作品なのだった。ところが、私の根性が良くない。文芸評論家がほめようが、読者として、最初から結論のあるものなら、社会論文にすればいい。これでは文芸にはならない、と言いがかりをつける。そして「次に私をぎゃふんと言わせるものを書けばいいではないですか」と言い放った。当然であるが、彼はそれに腹の虫がおさまらず、しばらく投稿がなかった。(我ながら悪い奴だと思う)。それが久しぶりに投稿したのが本作である。大げさにいえば、これは短編ながら読者の心をゆさぶり惹きつける「うねり」のつくりは、ドスエフスキーの「罪と罰」に匹敵する。とにかく、木下さんには「ぎゃふん」といわされました。一般論として、大会社に定年まで勤めて、退職後に文学をやるという人はには、自分に文学的センスがないことに気づかない人が少なくないと思っていた。しかし、木下氏の例を考えると、どうもセンスがないのではなく、眠っているだけで、努力でそれを磨きだすことが可能なのだ。それにしても何処までも学んで前進する姿勢には感銘を受ける。木下氏の社会人としての大人の対応に比べ、なんという自分の子供じみた言動なのだろう。ただ懺悔するしかない。いまさら遅いのであるが、いつも自分は反省が遅すぎるのである。
発行所=〒134-0091東京都江戸川区船堀1?3?3?204、牧野方。
紹介者「詩人回廊」北一郎。

カテゴリー:

【「花鳥」荻悦子】
 作品は「訪れ」と「赤い嘴」の2編で、ほとんど散文詩である。「訪れ」はこの世では光が落ちる場所があるという。それで言葉は完成しているのだが、それでは世界が構成されない。そこで私の世界を展開する。永井隆夫という画家に教えを受けた彼と私の空間。ここにある私は、鏡の中の私であって、しかもその裏側に存在する。鏡のなかからは花を差し出すが、それを受け取るには鏡の世界に入らねばならない。光と花が映って反射している。「赤い嘴」では、私は鏡の反射投影の作りだした世界に入ってしまう。私はベルギー人となって、白鳥の「赤い嘴」に犯されることを夢見る。詩人の心は時空を飛ぶ。
【特集「NINJA『忍者』という生き方】
 百地三太夫の話が面白い。私自身、信州戸隠山の百地の伝説があると聞いて、取材に出向いた経験があり、そこから上杉と武田の対決に興味をもった。文芸味としては万リー「半分現地、半分自宅の小さな旅」が、うまい。
【「サハリン 埋もれ行く風景」谷口葉子】
 丁寧に書かれているので、読ませられる。叙情のスケールが大きいのが良い。
その他の創作もそれぞれ味わいがある。
発行所=〒156?0044世田谷区赤堤1?17?15、二都文学の会。
紹介者「詩人回廊」北一郎

カテゴリー:カプリチオ

2013年10月 4日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「天然理心流」石塚邦夫】
 新選組の近藤勇の父周助が内藤新宿の近くに天然理心流の試衛館という道場を開いていたが、他の流派の道場は流行っても、これは三流道場とされ人気がなかった、という。しかし、実戦的であったのか新選組の近藤隊長や土方歳三などの戦いの強さの要因であったという。剣豪に興味のある人には、興味深い資料なのではないだろうか。
【「宮沢賢治の秘密」根保孝栄】
 宮沢賢治といえば「雨にも負けず」の詩が有名だが、これは詩作品として発表されたものでなく、手帳にあったメモで、資料に過ぎないことと、詩として政府によって教科書に採用し、戦争中の国民忍苦の正当化に利用された話がある。その他、宗教的な側面と、異常感覚的な短歌の存在を記している。特に女性に対する心の持ちように独特な精神性をもっていたことが記されている。
【「脱原発へのシナリオを」日下邦子】
 道内の出版社「寿郎社」が「北海道(泊原発)の問題は何か」、「原発を拒み続けた和歌山の記憶」(汐見文隆・監修)を刊行していることがわかり、それを読んで、電力に対する認識が深まる。
【「ヘラクレスは来なかった」福島昭午】
 泊原発に反対運動をしてきたリーダーの記録。その一部を引用して、情報として「文芸同志会のひろば」に紹介しています。
発行所=〒061?1148北海道北広島市山手1?1?10、人気像同人会

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