2013年4月アーカイブ

2013年4月25日 (木)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「そんなことは百も承知のはずだったけど」西野小枝子】
 律子と千尋は7年間同僚として働いた仲の良い教師仲間であった。千尋より二年早く退職した律子は、その後の女友達としての交際を続ける。旅行をしたり、お互いの娘の話や世相の政治談話など楽しく良い関係が続く。そのなかで千尋が難病の悪質な癌になってしまう。千尋の亡くなるまでの無念さや、律子のかけがえのない友人を失った喪失感が素直に描かれている。てらいのない身辺雑記的な、同人誌ならでは作風の読み物であるが、よくあるエピソードの細部が生きており、作者の気持ちが良く伝わってくる。ただ、これで文芸かというと、生活日誌と文芸との中間小説の感じがする。同人誌には多いパターン。
【「カンナの恋」眉山葉子】
 未亡人となっているカンナという中年女性が、自由さと人恋しさからか、漠然とした欲望を潜在させている。彼女に四人の家庭持ちの女友達と交際があって、お互いに潜在的な欲望を満たす話をし合ったりする。競争意識にも駆られて、カンナは粋な男性と交際を深めていくのだが......。女性のエロスへの欲求を軸に、小説となる場面や心理を描くのが巧みで、読者を惹きつける勧どころを心得ている。天性のストーリーテラーの才気を備えているように思えた。どんな作者であろうと、興味が湧いてあとがきを読むと、周囲の意見を取り入れ三年かけたという。そうなのかと思ったが、周囲の意見を素直に取り入れられ、自己流に難なく消化するのは、本来の創作に対する喜びをもっているからで、やはりそれは才能というべきであろう。職業作家なら当然のことであるが...。ラストは唐突に終わっているように読めるが、それを作者が気にしていないというのが良い。小説の構造上、3分の2が読みどころで、終わりのパターンは限られたものに決まっているからである。
 発行所=〒619?1127木津川市南加茂台14?8?1、大家方。マストの会。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

カテゴリー:檣 マスト

「婦人文芸」93号(東京)

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2013年4月17日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「まだたりない悲しみ」北村順子】
 同人誌にはめずらしいた登場人物ごとの視点移動を多用した物語。構成にも気を配って、創作者としての意欲が伝わってくる。木村より子は離婚して、独身の年配者。さびしく人恋しい心を隠しているか、意識していない。堀部健介という男は、サラリーマンをしていたが、先輩社員が事業を起こすと誘われるが、結果的に出資金を騙しとられた形になり、人間不信をかかえて浄水器のセールスをしている。彼が女性関係を避けるために結婚しているように指輪を、周囲に家庭のあるように真に迫った架空の話をするのが面白い。さらに夫のある有閑婦人と密かに情を通じてもいる。
 3人の人物の登場で問題提起があり、それにどういう答えをだすか、その答え方を読者は味わうわけだが、この作品では3人の触れ合いの思い込みを判れというはかなさで、答えをだしているのに少々驚かされた。しかし、読者としては納得されられ、説得されたので、やはり巧みな筋運びという感じがする。

カテゴリー:婦人文芸

2013年4月15日 (月)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌の後記「編集室」には、合評会では「結局は飲んで騒ぐだけ終わる。それでいいのか」という問題提起があって、かなり議論が弾んだとある。かつては名門同人誌として、評価される優秀作が多かったのに、近年は鳴かず飛ばずではないか、という。そこに、時代の変化があるのではないか、それでも三田文学の評には何度か取り上げられているのだが......という意見があったという。多くの同人誌に共通した課題ではないだろうか。ただ、傑作を目標にするなら、公募してみれば時代に合ったものなら、世にでるはず。また、スタンダールのように100年後にしか評価されないとわかっていて書く姿勢もある。多くの同人誌は共同で発表の場を作ることが目的なので、作品の質を問うのは二義的なことである。目先の評価は、書く上でのちょっとした彩りにすぎないであろう。
【「浮島のあかり」青柳隼人】
 家族娘と妻に先立たれ、自分も再起不能の病になった教授と知り合った水雲燈子の視点で書かれている。前半は燈子の母親の境遇との関係が述べられ後半は、教授の亡き家族との精霊との出会いを求める話になっている。筆致の様子から、作者は女性のようだ。全体に長く紙数を費やしている分、雰囲気がでている。が、内容が2分されているので、浸りきる気分が薄い感じもする。でも根気よく統一した雰囲気でまとめられている。
【「精三老人のねぶた」笹田隆志】
 ねぶた祭りの様子をテレビでみていて、あのような巨大な力強い大型提灯をどうやって作るのだろう、と疑問に思っていた。これを読むと、その様子が、よくわかる。昔は提灯づくりの人が、やっていたという。その家の子供の視点で散文小説風に町の風景から入る。ねぶたの伝統が、時代の流れの中で作り方や素材が変わってくる。ここでは少年が、父親のねぶた師の仕事の道に入らない。そういう時代背景があるからで、伝統的な製作法が失われることが、滅びゆく予感を感じさせるが、しかし時代の変化なかで、新しい伝統承継の形が生まれるのかも知れないと思わせる。
【「青年の階段の中で」秋村健二】
 高校生時代のすでに過去の時間のなかに埋もれてしまった出来ごと、情念を綴った散文。歌の詞に「青春時代は、迷ってばかり。青春時代が夢なんて後からほのぼの思うもの」というのもあるが、濃密な学生生活時間があったことに、羨ましいものがある。
 そのほかの短い散文を読んだが、それぞれマイペースの作風で充実している。とくに議論するほどのこともないのではないか。
発行所=青森市安田近野435-16、北狄社。

カテゴリー:北狄

<2013年 4月11日(木)付、「文芸同人誌案内」掲示板より転載・投稿者:kitaohi>

「エブリホームの女たち」(水木怜)

 達者な文章、素晴らしい構成で、いつもこの作者の作品は一気に読んでしまう。
高齢者専用賃貸マンション(高専賃)エブリホームに64歳で市からの助成金と親の遺産を処分した資金で、健常者として入居した杉子が主人公である。4階建てで20名ほどの入居者がいる。高齢者専用ではあっても賃貸マンションなので各自が部屋で食事をする仕組みになっている。
 杉子の左隣りに金本さん、右隣りは綾乃さんだ。綾乃さんは67歳で人懐っこく、杉子とすぐに友達になる。綾乃の部屋は足の踏み場がないほどの散らかりようなので、いつもお茶を飲むのは杉子の部屋と決まっている。
 男性も何人か入居しているが、その中に進藤さんは67歳、元税理士で大学時代の仲間と今でもジャズライブをし、クラリネットを吹いていおり、このホームの人気者だ。その進藤さんと綾乃は親しくなる。
 ストーリーは、綾乃、綾乃の息子隆之の妻という美祢、その息子の哲(ケイ)、進藤、杉子の俳句仲間の梅子、本町先生などを中心に進むが、更に重要な役割を担う占い師がいる。占い師は、杉子が天神から警固町に向かって歩いているときに声をかけてくる。
 作品は原稿用紙で100枚近い大作だが、筆力のせいだろうか、ストーリーは込み入っているが、一気に読んでしまった。ほのぼのとした作品だ。高専賃といった高齢者を対象とした高級な賃貸住宅内の住人を対象にしており、これからの高齢社会を考えると、こういった作品をどんどん発表してほしいと思う。

「夜の足型」(上原 輪)

 舞台は北欧なのかカナダなのかよく分からないが、雪が降り、寒い地域が舞台だ。主人公は「あたし」(リッリ10歳)、おととい父親が死んだのでその足を粘土で包み、足型を作り、そこに水を入れ氷でできた足型を外に置いておく。そんな時に旅人のケンが来る。母親は5歳の時に家を出て行き帰ってこないが、お金を時々送ってくる。おばあちゃんもいるが腰が悪くて入院している。
 以上の登場人物で異空間を創り、シラカンバの木、朽ちかけた教会などを配置している。言語は英語ようだが、おばあちゃんは英語が苦手らしい。作品を読んで感じたことは、異空間にリアリティがなく、10歳の男の子が1人でどのように生きているのか、隣家は車で15分というので7、8km離れており、おばあちゃんは車で40分というので20km以上離れたところである。ここの住民はどのようにして繋がり、生きているのかイメージができない。氷で作った足型で作った足型が融けるまで遺体を埋葬できない習俗があるようなのだが、その習俗を守っている村(集落なのか)はどういうところなのか、また、奨学金の試験に合格したとあるが、取って付けたような感じだ。
 異空間を創り、そこでストーリーを展開する手法はいいとしても、読み手が納得できるような作品にしてほしかった。

「短編小説集」(水木怜)

「マリアの風」
 幸吉は48歳だが、リストラされて仕事がなくむしゃくしゃしていた時、地区の子供たちが植えたチューリップの花を傘で横なぎにしてとってしまう。傘に名前があったことで幸吉が犯行とと分かり、派出所に連れて行かれ始末書を書かされる。帰り道、母親の知り合いのヨシに会う。ヨシは60歳を過ぎている。ヨシに家に連れて行かれうどんを食べさせてもらう。その後ヨシと男女の関係になり、更に幸吉が事故に遭ってからはヨシの家で一緒に住む。しかし、ヨシの好意をわずらわしく感じヨシに冷たく当たる。幸吉はヨシを捨てて家を出たが金に困りヨシの家にくる。そこでヨシの年金が入った茶封筒を盗み逃げようとしたところをよしに見つかる。小男のエゴ、女の微妙な心の動き、男に尽くす気持ちが本当に細かく書いており、いい作品だ。

「遊境」
「私」が息子信夫の嫁伊代の盗癖を掛かりつけに医師に話すことから、物語が始まる。医師のところには週に1回行くことになっている。指輪がなくなったこと、食べ物も食べていないのに、先ほど食べたというなど、伊代の虚言癖も話すようになる。信夫ではない他人から「おふくろ、・・・。」といわれるようにもなる。
 高齢者の多くがたどる道を、段階を踏んで書いており、感心してしまった。

「階段」
 総子は夫信一郎を15年前に亡くした。その夫の13回忌を終えたときに脳梗塞で倒れる。夫の13回忌をする1年前に1人息子和夫をバイク事故で失う。夫の13回忌を終えたことにより脱力感に襲われたが、そのことにより脳梗塞になってしまい、1年近い入院生活を送る。退院後2階の部屋にはいる。ヘルパーの清水さんが親切に面倒を見てくれるが、なかなか2階から降りる勇気は出ない。寝ながら総子が見る夢は、信一郎や和夫のことばかりである。そんな時に和夫の夢を見て2階から降りる勇気を貰う。ヘルパーの清水さんに助けられながら何とか降りる。自分が寝ていことにより止まったままだった時間を、階下に降りたことで考えてしまう。
 そんな時に和夫の学生時代の友人の山元が単身赴任することになったといって訪ねてくる。ほのぼのとしたいい作品だ。

「陽のあたるベランダ」
昔の映画「裏窓」のような作品で、作者にしては珍しい推理小説っぽい仕上げとなっている。薫と梓はミーナマンションで隣り合わせに住んでいる。薫は洗濯好きだ。薫の住むミーナマンションの向かいにあるベルコーポの2階がよく見える。そのミーナマンションの2階の洗濯物の干し方に異変が感じられた。そこから事件性を嗅ぎ取る。テレビのドラマによくある流れで新鮮味はないが、面白い作品だ。

「水滴」
 子供ができない夫婦の物語だ。咲と雄一夫婦には子供ができない。咲は29歳で結婚したが、32歳になっても子供ができない。物置には野良猫が棲みつき5匹も子供を産む。その5匹の子猫はイタチにやられてしまう。そんなこともあり咲は医師に診察してもらうが、咲には全く問題がなく、夫の雄一が無精子だったのだ。咲が40歳になったときに、夫の雄一は、新聞広告を出し、坂上民生という青年をバイトで雇う。坂上民生の血液型は雄一と同じO型だった。血液型が夫と同じだと分かり、咲にあることが芽生えた。よくあるストーリーだが、作者はうまくまとめている。

「目」
 成子は浩一郎と結婚して35年にもなる。電車の中で一目ぼれした浩一郎が、人を介して結婚を申し込んできたのだ。成子は結婚して浩一郎の性格を知ってから、ますます浩一郎を嫌いになる。その浩一郎と地下鉄祇園駅の階段を上るときに階段をふざけながら下りてくる高校生に浩一郎が飛ばされ、階段の下まで落ちていく。その際、浩一郎は成子に助けを求めるような目をしたが、成子は助けなかった。その後成子は、浩一郎の助けを求めるような目の幻覚に悩まされる。作者にしては珍しく救いのない暗い作品にしている。

「夏の残り」
 セツ子と寛太は5年前からセツ子の家で暮らしている。2人は割烹「魚苑」に勤めており、寛太は魚苑の料理人だ。中卒でこの世界に入った寛太は掃除、鍋磨き、皿洗い等を経験し今では魚に手を付けるまでになっている。ただ、ここまで来るには、吃音であることにより人付合いが悪く、苦労したようだ。一回りうえのセツ子がそこを姉のような感じで面倒を見ているうちに、男女の関係になる。その寛太が3か月前にセツ子に世話になった礼をいって家を出て行ってしまった。理由は、寛太の隣で信号を待っていた女性が走ってきたトラックに飛び込み自殺を図る。寛太はその女性を助けることができたのに助けられなかった責任を取って、手を失った女性と生活するためだった。
 本来的には自分に全く関係のない女性と生活するために、永いこと世話になった女性を捨てて出ていくことに不自然さを感じるが、作者は男の責任感の強さを書きたかったのだろうか。

カテゴリー:照葉樹・二期

2013年4月10日 (水)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 淡路島ゆかりの地域文芸同人誌である。錚々たる面々というか、実績のあるひとたちの執筆陣。発行者の北原文夫氏の第7号に掲載作品「秋彼岸」が、「季刊文科」に転載された。同氏が今号の編集後記に、掲載作品の簡単な紹介をしている。親切でいいですね。 ? そのなかで、同人のお孫さんで高校2年生の作品があるというので、読んでみた。 【「水車小屋」鈴木航】 ? 水車が好きで見たいという七歳の弟のために、彩子は弟の手を引いて川の上流に向かう。すると、どこからか老婆が現れ、やはり水車が好きという。弟の水車が好きという一途な心を大切にしなさい、とアドバイスしてくれる。帰りに気がついてみると、公園の時計は四時なのに、彩子の腕時計は六時を指している。タイムスリップの区域に入っていたらしいーーという話。弟の表現で行間に愛の満ちた良い調子があって、清々しい詩的散文である。この世代にしては、むずかしい理屈を言わないところは、詩人体質なのであろう。

【「下宿を変わる話」宇津木洋】 ? タイトルの通り、学生専門の下宿にいるエヌ君が、就職活動しはじめて、下宿を出る羽目になり、お寺に下宿を変えるまでのさまざまな出来事と、その気分を描く。小説というより、住民の雰囲気や風物をのびのびとした筆致で描く散文。散文小説主義をもつ私の好みかも知れないが、へんに作った小説より文学的である。とくに終章の崖崩れの描写などは、破壊の危機感とその風景の美の表現でじつに何かを感じさせる好いものがある。 ? そのほかの作品は北原文夫氏が記した編集後記からの紹介ですーー。

【大鐘稔彦「父と子」】 ? 作者は医師・作家・歌人。ベストセラー「孤高のメス」(幻冬舎)の作者。新しい同人として歓迎し、「父と子」を巻頭にした。平家物語に造詣の深い方だが、平家の武士武将瀬尾太郎と小太郎父子を冷静な目で捉え、武士のありようを歴史のなかに位置づける筆力はさすがである。

【植木寛「最前線の軍医」】 ? 激戦のルソン島に樋口軍医のような人がいたのかと驚かされる。宣布医療のためであるが、現地住民の治療にあたって住民の信頼を得、米軍のパイロットを密かに治療する。兵団転戦のおり動けない傷病兵に自爆用手榴弾が配られるが、自爆をするな、捕虜になって手当てを受けよと説得し、洞窟入り口に赤十字のしるしを何枚も掲げ、アメリカ軍に手当の依頼を英文で書いて本体へ追いつこうとする描写は、はらはらとさせながらもさわやかである。(以下略)

?発行所=〒656-0016兵庫県洲本市下内膳272?2、北原方、淡路島文学同人会。

カテゴリー:淡路島文学

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