2012年3月アーカイブ

「雑木林」第14号(枚方市)

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2012年3月30日 (金)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「あきらめない続・二」井上正雄】
 冒頭は「妻の昌子が病院で意識不明になってからよみがえることなく二年半を過ぎた。その後の状況の手記である。」となっていて、その後の三年にわたる介護の記録である。介護をしながら筆者は、妻の元気だった頃の夢を良くみる。そして「退職後もいろいろボランティアの仕事で忙しかった。今にして思えばそんなことをするよりも、二人で世界を旅行して回った方がずっといい余暇にちがいないと残念に思うのだが今更しょうがない。」とし、介護の二人きりの時間を今までにない濃密な時間を過ごしていると感じるのである。その介護生活が詳しく述べられているのだが、何故か読みがいがある。そこには、人が生きることが何であるかが示されているからであろう。
【「白川正芳さんの世界」安芸宏子】
 09年に発行された「藝術百科」という本に文芸評論家の白川正芳氏の俳句が多く載っているという。白川氏の埴谷雄高の評論は読んでいるが、俳句は知らなかったので興味深かった。もののあわれをロマンチチックに明朗化する作風に人柄を感じさせるものがあり、よい解説に読めた。
【「青いコップ」村上節子】
 今年の夏に沼津の千本松の浜辺で青いコップを拾って机に置いている。すると、ロンドンで亡くなった息子の姿が甦る。失われた愛は、いつも心のなかに渦巻いて消え去ることがない。短いが哀愁に満ちた詩的散文である。
                  (紹介者・伊藤昭一「詩人回廊」編集者)

カテゴリー:雑木林

2012年3月25日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「末期がん」篠垤(しのづか)潔】
 がんの余命と医師の宣告について、医師が病状観測を患者に告げなかったので、患者が死期を知らずに過ごしたことについての裁判があったことの話から始まる。
 筆者は、1944年に広島で生まれ、広島原爆零歳被爆者で、現在、広島原爆特別養護ホームに入園している。その境遇からのレポートである。
 それによると、筆者は、
「1996年(平成8年)に肺がんの告知を受け、治療法を求め5つの病院で診察を受けた。重度の心臓機能障害があり、初期がんだが、外科治療法をはじめまったく治療法がないとされる。
 さらに肺がんでも治療方法の異なる小細胞がんか、非小細胞かの確定診断に必要な気管肢内視鏡検査や針細胞診断もできないという。仮に可能とする治療法があったとしても何も出来ないのだ。
 幸い私の肺がんは肺内転移だけで、がん細胞の石灰化による壊死が一部認められ告知から15年が経つ。
 医学でいう5年生存率の観点からすれば治癒したと見なされる。しかし、私の肺がんは白血球が1万を超え、肺内転移の範囲は広く末期がんに近い病状になってきた」とし、
さらに「零歳被曝者の私にとってがんの発症は原爆放射線後障害の疑いは拭えない」という感想を記す。
 このような境遇からの表現の場というのは、日本の同人雑誌ならではの役割りを示している。とくに零歳児で放射能被曝をしたという点が、現在の福島第一原発事故以来、関心を呼んでいる放射能被害についての貴重な記録に思える。篠垤(しのづか)さんは、肺がんが原爆放射能の影響と考えているらしいが、その前の重度の心臓機能障害がすでに放射能の影響なのではないか、という推測が可能なような気がする。
発行所=309?1722茨城県笠間市平町1884?190、文学を愛する会。
 《参考》なお、放射能被曝の人体への影響については、少量なら良い影響があるというラッキー博士の研究<   玉川温泉のがん患者と「ホルミシス効果」の関係>や、それが重大な悪影響があるという<バンダジェフスキー博士の警告>研究がある。

カテゴリー:アピ

2012年3月20日 (火)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「変成自分史?中年バックパッカー独り旅・南米編?」西村弘之】
 ペルーのマチュピチュを目的に、ダラス空港経由でサンパウロに向う。その面白さや良さを紹介するには、写し書きすることになるので、しないが、とにかくお勧め。旅行記として、臨場感もあるがそれにプラスする歯切れの良い文章力。旅行記で久しぶりに地味ながらの才気というか、良い表現力で魅力的な読み物に出会った。これまで相当書き溜めたものがあるのではないか。タイトルが同人誌的で自分の気持ち優先だが、読ませてやるというタイトルにすれば、広く読者を獲得できるような感じを受けた。
(紹介者・伊藤昭一「詩人回廊」)

カテゴリー:照葉樹・二期

「R&W」11号(愛知県)

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2012年3月18日 (日)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

 本誌は「朝日カルチャーセンター」の教室仲間で、藤田充伯講師の受講者たちの研修成果を問うもの。昨年10号の発行時点で、地域の公的な補助金が出るようなったとある。東京では考えられないことで、愛知県ならではのことであろう。目を通していたが、紹介する余裕が持てなかった。10号から藤田充伯講師がエッセイを書いている。落ち着いた筆致で、読ませて印象に残るものである。
【「雨音」霧関忍】
 吉本隆明の亡くなる前に書かれたものであるが、全共闘時代の活動家の話である。主人公の友人で、活動家でなかった男が、主人公の男の部屋にいたので、鉄パイプで活動家のセクト争いのゲバ襲撃を受けてしまう。主人公は友人が死んだものと思い、その襲撃に自分が絡んでいること隠すように細工する。ところが友人は、意識不明の重態ではあったが、死んでいなかった。そこで、主人公の正体......とミステリー風になるのだが、これは小説だが、この時代はゲバ襲撃で死んだり、身体障害者になったりした者が多く出た。経済成長時代の光の部分と裏の暗部である学生革命活動を題材に、論理とは無関係な情念に動かされ、時代に押しつぶされた世代を描く。あれは何であったのかと、感慨深いものがある。
 発行所=〒480―1179愛知県長久手上井堀82?1、渡辺方「R&Wの会」
(紹介者・伊藤昭一「詩人回廊」)

カテゴリー:R&W

2012年3月17日 (土)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「神話入門」畠山拓】
 生活のなかで文学がどのようなポジションにあるのか。この作品では、主人公の精神構造に占める様相が自由闊達な筆致で表現されている。55歳の男と35歳の女との付き合いに生じる空気を文学作品引用を活用して、抽象化している。イザナギとイザナミの日本神話から、ドストエフスキー「地下生活者の手記」、バルザック「サラジーヌ」「セラフィタ」、バージニア・ウルフ「オーランド」、大江健三郎、澁澤龍彦「夢の宇宙誌」、プラトーン「饗宴」、カミユ「シーシュポスの神話」「異邦人」「ペスト」などを登場させて、味付けを利かせて楽しませる。
【「大逆事件の発端」崎村裕】
 崎村裕・著「百年後の友へ?小説・大逆事件の新村忠雄」(かもがわ出版)を刊行した作者。官憲が幸徳秋水を抹殺する手段として、その発端となった人物、宮下太吉の無計画性に富んだ行動、気まぐれと同居した実行力を、丹念に調べ、人間性へのミステリアスな語り口で追究する。とにかく興味を誘って眼を離させない。現代では、時代の空気が異なるために、なかなか理解しにくい微妙な部分を提示して、文学的な説得力がある。
 発行=〒389?0504長野県東御市海善寺854?98「構想の会」
(紹介者・伊藤昭一「詩人回廊」)

カテゴリー:構想

『ふくやま文学24号』広島県

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<2012年 3月11日(日)付、「文芸同人誌案内」掲示板より転載・投稿者:「クレーン」和田伸一郎>

【「うずみ」中山茅集子】
「うずみ」とは、備後(びんご)(広島県東部)の郷土食で、かつて領主が節約令を敷いたとき、椀の底に入れた具を上から飯をかぶせて隠すもので、「松茸、野菜、海老、豆腐が入り、薄味の汁と共に椀に入れ炊き立ての飯をかぶせてから柚子の一片をのせる」ものだそうだ。
 それがレトルトとなり、「町おこしの目玉として浮上してきた」ことを知り、「女」は敗戦直後に「うずみ」を食べた体験をよみがえらせる。
 「女」の夫はニューギニアからの帰還兵で、「あの島には大きな川があって、その川の両岸に累累と魚が打ち上げられていると見たのは餓死した兵隊たち」であり、「地獄の亡者は、生きて故国に帰った夫の背中に張り付いている」という状態だった。
 この小説を複雑にしているのは、「女」の精霊が登場してきて幻想の世界へと導くからだ。夫は飢えをしのぐため、「子を食うた!赤子も食うた!」と母親とセックスしながら告白する。それは懺悔を行うための原始宗教の儀式のように描かれている。息子の背負っているものを吐き出させ、楽にしてやるための母性愛。その母親が「女」の精霊によっていつの間にか「女」と入れ替わる。
 戦争の傷跡が人間の心の奥深く、後々まで残り続けることを現代によみがえらせた作品として読んだ。

カテゴリー:ふくやま文学

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