2011年6月アーカイブ

<2011年 6月21日(火)付、「文芸同人誌案内」掲示板より転載・投稿者:kitaohi>

【「残照」水木怜】
「照葉樹」92ページを使った特別号で、長い小説だが、読みやすいい。文章もこなれており、テンポもいい。久しぶりに長い小説を一気に読んだ。力量の高い作者ということがよく分かる。

 物語は、多恵(樹調多恵、主人公)が西岡から野口佐千代が亡くなったというメールだが届くところから始まる。西岡はアルバサウンド(甲南大学グリークラブのOBの合唱団)メンバーで、多恵はそこでピアノの伴奏を30年近く引き受けている。佐千代とはアルバサウンドの打ち上げパーティー初めて会ったのだが、同じ小学校の同級だったことがあるという。いろいろ話をしているうちに少しずつ思い出してくる。佐千代はアルバというスナックを経営しているという。佐千代が多恵にこっそり教えたことは、ガンの第4ステージで子宮など全部取り、女でなくなったことだった。その時の年齢は63歳ごろだ。それから半年後に西岡、佐千代、多恵のの3人でカラオケに行く。その時佐千代は、生への強い執着を口にする。訃報メールはそのあと来たのだ。西岡は佐千代を愛していた。

 多恵は26歳の時に10歳年上の岳志と結婚する。岳志との異常な性愛と嫉妬深さに耐えられず、結婚して3か月もたたないうちに、離婚を決意する。しかし、ハネムーンベイビーがお腹に宿ったことを知る。生まれた子供は「翼」名づけたが、2年後に耐えられなくなり離婚するが、翼とは別れなければならなかった。多恵の生活は、父が残してくれたピアノでピアノ教室を開いたら教育ブームに乗り、順調に伸び、生活に支障をきたすことはなかった。が、息子への思慕の念が強くなるばかりだ。翼は生きていれば36歳になるはずだった。翼の人生を狂わせたのは私だという思いも強くなり、岳志と会おうと考える。岳志は73歳になっているはずだ。

 岳志が父親から引き継いだ会社に連絡すると岳志は高級なケアハウスにいたが、足が悪く歩行器を遣っていた。会話は思っていたよりスムーズに進む。再婚した奥さん(克美)のことを聞く知らないという。また、同様に翼のことも知らないという。多恵は克美に会いに行く。克美がいい女性だった。岳志より2歳上の75歳という。また、翼の消息も、西岡が岩国の温泉場であった男らしいということで繋がってくる。

 第4章は翼が主人公という書き方で翼の36歳までの波乱の生き方が書かれている。翼は暴力団から逃れて久美子という女性に匿われ、生活するようになる。しかし、翼は父親の岳志と同じような嫉妬深い男になっていた。久美子はそれに耐えられず、自ら命を絶つ。翼は嬉野の窯場に入り世捨て人のような生活を始める。

 終章は、多恵が岳志を最後まで看取るという状況にして終わる。

 長い小説だが最後まで面白く読めた。これだけの作品を書くには相当なエネルギーがいったと思う。凄い書き手と思う。文章も推敲されていてとてもいい。小説とはこういうものかと思いながら読んだが、登場人物は全員が善人なのだ。連続のテレビドラマにしてもいい感じである。窯場の山野さんもいい人物だ。

 もう一つ、この小説には生活の匂いがないように思った。多恵が母子家庭で苦しかったとあるがあまり実感が湧かない。翼にも生活臭はない。窯場の主人(山野)も翼を食わせるのに困らないぐらいの収入はあるのだろうか。こういったこと言い出すときりがないが、一つの世界を作り出していることは確かといっていい。

カテゴリー:照葉樹

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