2011年3月アーカイブ

「照葉樹」10号(福岡市)

| コメント(0)

<2011年3月27日(日)付、「文芸同人誌案内」掲示板より転載・投稿者:kitaohi>

いつも素晴らしい作品を載せる照葉樹、その照葉樹がもう10号になったのかと感心してしまう。毎号素晴らしい作品を載せ、どの作品も高い評価を受けているのだ。私自身二人の作品を十分に読みこなしたという自信はないが、感想を書かせて貰う。

【「みつさんお手をどうぞ」水木怜】
 俺(藤堂健)は変わったバイトを引き受けることになる。依頼人は木元浩志という。認知症で息子も見分けられなくなった木元の母親の面倒を、週に4日(1日3時間程度)ほど見てほしいというものである。俺は、遠縁の自動車整備工場に住み込みで働きながら九大の工学部を卒業したが、小説家になりたくてそこを辞めて居酒屋のアルバイトで生活をしているので、願ってもない仕事だった。依頼主の木元は、父親が印刷所を立ち上げ直ぐに亡くなったので、その印刷所を引き継いでいる。また、自分は母子家庭と思っている。俺も母子家庭ではあるが、母親は働いていたので祖母育てられたので、老人は好きだ。木元の母は、みつさんといい、俺は木元浩志になりきって話し相手になったり、その他息子としてやるようなことをすべてすることになった。みつさんは認知症なのか、次第に俺を信じ木元浩志と思うようになる。作品はこの間の経緯をとてもよく書き込んでいる。みつさんは70過ぎまで市内のある割烹で仲居頭をし、従業員の采配をしっかりやったので女将さんから絶大な信頼をされていたらしい。たまに仲居頭時代に戻り、周りの入所者に迷惑をかけることもある。
 俺がみつさんに信頼されるようになるにつれて、親不孝をしてきたこともあり、複雑な気持ちに襲われるようにもなる。そのうちにみつさんに編み物をさせたところ、みつさんが大喜びをする。俺とみつさんの心が通じ合うようになると、次第に木元浩志が不機嫌になってくる。あるときみつさんが仲居頭時代になりきり、事件を起こす。その後みつさんが軽い脳梗塞を起こし、入院する。入院後みつさんは寝たきりの状態になったらしいが、俺には逢わせて貰えない。木元浩志が厳しく拒絶する。
 長い作品だが、一つひとつの出来事や感情の動きなど本当に上手く書いている。どの場面を取ってみても細部がきちんと描かれ、感心してしまう。さらに凄いのは、木元浩志が「俺」がみつさんと心が通じ合うようになるにつれて、「俺」に距離を置く感じになるところについて、全く説明がないのがいい。読者に考えさせ、想像させる形をとって終わっている。とても素晴らしい作品と思う。

【「二人」垂水薫】
 里見は中学3年で、父親と離婚し別の男と結婚した母親曜子と生活をしている。学校では成績もあまりよくないことと、実の父親が性格的な面から仕事が上手くいかないことを知っているので、学校が終わると中学生なのだが夜遅くまで父親が経営する焼き鳥屋を手伝っている。ある日学校で進学する志望校(公立か私立か)を書く用紙が配られるが、高校を受験せず、就職しようと思っているのでその用紙に書き込みをする気が起きない。里見の父親は見栄っ張りで収入がないのに外車を買って乗り回している。また、怒りっぽくて、相手かまわず感情を爆発させてしまう。一方、里見の母親が再婚した相手は、徳一郎といい、背も低く顔もあまりよくないが、まじめで母とも非常に上手くいっている。里美にも申し分がない。義父の徳一郎には里見と同い年の信吾という連れ子がいる。先妻は、信吾を生み直ぐに亡くなったという。信吾は学校の成績もよくスポーツも万能だ。生活は父の徳一郎とは共にせず、祖母のイネと暮らしている。里美は勉強などの面で信吾にかなわないので、信吾と同じ家族ということを知られたくない。
 翌日祖母のイネは、信吾を連れて里美が寝ている時間に訪ねてきた。信吾の進学校の決定をするので、徳一郎に決めて貰うためだった。里美は就職するつもりだったので母親にも相談をしなかったのだが、イネにも叱られる。里美は自分の進学校と関係ないと思い、席を立とうとすると、イネに引き止められる。この席で、信吾の出生の秘密が里美親子にも教えられる。結局、信吾は、有名私立高、里美は、公立を受けて落ちたら私立にいくことになる。この話し合いを通じて、イネ、徳一郎、信吾、母、里見の心がお互い溶け合う。里見も徳一郎を「お父さん」と初めて呼ぶ。心が溶け合うまでの心の動きがうまく書かれている。
 里見、母、里見の実の父親、里見の母の結婚相手の徳一郎、イネ、信吾の性格などがそれぞれうまく書き分けられており、楽しく読める。イネが、この家族関係をうまく纏めていくキーマンであるにもかかわらず、くどくなく、さらっと書かれてる。しかし、読者には、読み終わった後にイネの存在感が大きく感じられるような構成になっており、とてもいいと思った。イネをあまり書きすぎると俗っぽくなってしまうだろう。こういった構成の作品を最近あまり読んでいないので、とても新鮮に感じた。いい作品だと思う。

カテゴリー:照葉樹

2013年5月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

カテゴリ