2010年6月アーカイブ

2010年6月29日 (*)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「赤い響き」奥端秀彰】
 奔放な生き方をしてきた父親。息子がその人生と死後の想いを描く。晩年に案外とおとなしく過ごしていた父親が写真に凝り、高級カメラを残す。そのデーターを取出してみると、ある山頂から見た赤い夕陽が見事に捉えられていた。
 父親の人生と息子の関係。息子のそこはかとない喪失感が短いなかにバランスよく描かれている。隠れたテーマとしては、写真の表現者である父親の表現が息子にどう伝わったのかというところがあり、それを追及すると、単なるファミリーストーリーから脱皮した芸術表現の伝達という普遍性をもつテーマにもなったのではないかと思った。
【「晩夏に」北村順子】
 季節の日本的な花鳥風月の描写を柱に、人の生き方とその過程を並行的に描く。人も自然の変化のなかにあるという明確な視点が作品をすっきりとさせている。
【「男の世界」塚田遼】
 男であると、あらゆる異性に種を振りまかねばならぬーーという肉食系男子の遺伝子に突き動かされ、女性をものにしていく過程を描く。女性のタイプを書き分けるのが手際よく面白く、楽しく読ませる。哀歓も含んで、純文学への足がかりも残している。
【「欲望と性格」淘山竜子】
 主婦と独身女性との現代の生活と意識の違いを書きわけて手際よく描く。女性らしいリアリズム手法に凝っているのか、現代性を重視するためなのか、作品の狙いでどの範囲を描くか、創作へのビジョンを読者へゆだねるようなところがある。小説的リアリティと現実のリアルとの違いはどこにあるのかな?と思わせるものある。(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

カテゴリー:孤帆

「奏」2010夏・20号(静岡市)

| コメント(0)

2010年6月19日 (土)付、「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載いたします。

【「ウキワ物語」田代尚路】
 22歳の息子をも主婦の生活を描く。大学生の息子と食事をすること。息子のブログを読んでいること。結婚生活。スポーツジムのインストラクターのこと。不自由のない恵まれた主婦の立場になって、失われた若さを自覚し、なにか輝くものをつかみたいという心象を描く。ストーリー性をもたせず雑然と描いているのかと思ったら、しっかりテーマをもった表現に読めた。言うにいえぬところの表現力に感心させられるものがある。折角だからもう少しその精神を追求して欲しいところもある。

【「クレオールへの夢―安部公房の文学言語」戸塚学】
 多種類の民族言語が混交する言葉が生まれる背景には、文化交流だけでなく国家および国家戦略による侵略や占領がつきまとうことが多い。カフカやベケットをクレオールと見た安部公房の視点を解説して興味深い。

【「評伝 小川国夫―第二回」勝呂奏】
 小川国夫の同人誌「青銅時代」のことや、大田区大森の教会や新井宿の親戚のことなど、安部公房と同じく城南地域に縁があるのを知って驚いた。小川国夫が志賀直哉に傾倒していたのは知っていたが、ヘミングウエイにも興味をもっていたことを知り、彼の文体から納得できるものがあった。とにかく長いものになりそうだ。途中まで読んで感想でも書こうと思っていたが、ついに終わるまで読んでしまった。「奏」発行所=〒420-0881静岡市葵区北安東1?9?2。(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

カテゴリー:

2013年5月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

カテゴリ