2010年4月アーカイブ

【「蜘蛛」楡久子】
慶子は48歳の主婦。同い年の夫、高校3年の息子、間もなく92歳になる義父との4人暮らしです。3年前から夕方2時間、ケアハウスでパートもしています。嫁いでから自分なりに心の遣り繰りをして婚家に合わせてきました。それなのに誰からも必要とされていないような疎外感があり、日常の些細な事で気持ちを立て直して毎日を過ごしています。今どきこんな主婦がいるのだろうか、と首を傾げたけれど、読み終わって納得しました。普通の主婦といえばそれまでですが、その日常感覚や生き方に同調しました。個人的なことですが、私はよく「何故こんなに雑多な事が起こるんだろう。他の人はいったいどうやって切り抜けているんだろう」と思います。やっぱり、みんなそれぞれに工夫してなんとか切り抜けているんだ、と思わせる細部に説得力があります。最後の一文が、不器用ながらも誠実な主人公の哀しさを表しています。

【「ラ・メール」芹沢ゆん】
29歳のOL、栞は転職とともに独り暮らしを始め、喫茶店「ラ・メール」のマダムと知り合うことで成長してゆく、自分探しの物語です。カリグラフィーや蔵書票について詳しく語られています。母親の人生や個人史を綴るM・Mさんの状況も説得力があります。そのため主人公の渇望感の方が薄まった感じで、少しバランスが悪いように思いました。いろんなものを並列に盛り込みすぎている気がしました。

カテゴリー:メタセコイア

【「きみのBARから海が見えて」中川由記子】
どうしようもない男の物語です。58歳の敬一は妻から離婚を迫られ、社会からも脱落しています。或る日、学生時代に半年ほど住んでいた町にふらりと立ち寄ってBARに入ります。ここでの料金に関する遣り取りが活写されていて、おもしろい。酔いがまわり、死んだ人たちもBARにやって来ます。何の取り得もないような敬一を憎めないのは、彼の中にある思春期に同調するからなのでしょう。予想外の展開で、ノスタルジーあふれる印象的な作品でした。
今までこの方の作品を読んできましたが、女性の内面を軸に据えた作品が多かったように記憶しています。今回の作品は、気持ちの良い裏切りでした。

カテゴリー:季刊午前

2013年5月

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