2009年1月アーカイブ

「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/(1月29日)より転載。

 創刊45周年というと、東京オリンピック前後の時代の創刊である。メンバーは大変な教養のある文人らしく、伝統と地域力をもった古式豊かな重厚さをもった創作、詩作品が粒ぞろいである。

【「落下傘花火」渡辺光昭】
 俊介は中学を卒業して、村の製剤所に勤めている。17歳である。経営者の源次郎にいつもがみがみ叱られている。俊介は、源次郎の娘、春子に思いを寄せているために我慢をしている。しかし俊介は、春子にどう想いを伝えたら良いかわからない。そこで、春子の弟に手紙を頼むと、やんちゃな弟は、学校でやる行事の落下傘花火の打ち上げで、落下傘を取ってくれたら、いうことを聞くといわれる。落下傘には景品がついているので、村人たちで奪い合いになる。その様子を描く。村の雰囲気がよく書かれている。

【「妻恋の果て」牛島富美二】
 万葉時代の防人(さきもり)を重厚な歴史小説である。自分は、その時代のことを良く知らないので、きっちりとした時代の生活ぶりの描写に、井上靖の作品を思い浮かべながら読みふけった。
あとで、それが「日本霊異記」の武蔵の防人に原作があるように記してある。その小説化する手際と創意は見事で、読み応えがあり、良き歴史小説として堪能できた。

【「思うは青葉城―仙台藩戊辰史譚」江田律】
 郷土史の専門家であろうか。仙台藩の運命の時代を、冷静に、しかも情熱をもって興味津々としを展開している。

【「姉歯の松探訪」石川繁】
 姉歯の松が歴史的な由緒があるとは知らずに、びっくり。
 その他、詩が充実している。みな年季が入って元気。

【詩「内視鏡と図書館」金子忠政】
「文字のはらわたを探索する」人々の精神的な情景。現代詩が勢いをもっていた時代をほうふつさせる緊張感もった詩風になにか、北川冬彦ばりの懐かしさを感じた。それに現実へのアイロニーの味を加えたところに現代的な意義がある。

【詩「遠景」色川幸子】澄んだ筆致の情景が美しく、失われた愛の空気を描く。端正な精神が読み取れる。

【詩「赤い羽衣」笠原千衣】
 古文調であるが、赤く萌える愛の情念を激しく歌う。この取り合わせが、意外で面白い。

【詩「ただひとたびのーー」紺野惠子】
「わたしは独りで歩かねばならない」ではじまる、どうして孤独に甘んじる姿勢がとれるのあ格調高い詩風

カテゴリー:仙台文学

1月26日 (月)「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載。

【「居酒屋」北原文雄】
 滝田が長年通っている居酒屋「ゆかり」。ここを舞台に、日本社会の縮図のような現象が次々と事件として出現する。女性客の語るワーキングプアの話からはじまり、70歳近い友人の牧村は女好きで、店に来た女性客を軟派することに熱をあげる。引きこもりの話題から、拉致問題や政治を論じる4人組の客、正規職員と臨時職員の格差問題が論じられる。その話の合間に滝田の亡くなった妻への罪悪感が示される。リアルな話では、このような居酒屋はないであろうが、小説であるから巧い設定になっている。そして、滝田は店にいた若者に突然、ナイフで腹を刺される。それが現在の価値観の混乱した社会の現象を捉えた表現になっている。

【「宗助の出家」望月廣次郎】
 この作品は「宗助が将来父宗玄の跡を継いで、浄願寺の坊主になることを、露骨に厭がりはじめたのは、小学四年生からだったろう」ではじまる。宗助の成長を描くことで、お寺の後継ぎをめぐる仏教界のしきたりが、詳しく描かれている。同時に、特筆すべきは、作者の宗教に関する見識が大変深いことで、仏教の教義と日常生活というものへの問題提起が、読者の胸に良く届いている。因果応報や前世の因縁についても、きちんとした思考への道を示しているのに感心させられた。
 一例をあげると、自分は武田泰淳の晩年の作「快楽」という長い小説を読んだ記憶があるが、人間存在と罪の意識を問うのに、大変難しく描いていて、良い作品だとは思ったが、あまりピンとこないところがあった。ところが、この「宗助の出家」は、素朴なようでいて、根本的な人間の課題にきちんとむきあっており、その明解さにおいて武田泰淳をしのぐものがある、とさえ思えた。

【「三十年目の遺恨」三根一乗】
 K医科大学卒業三十周年を記念するクラス会に出席、お開きの場で、同級の医師から、交流のなかで、不運に見舞われたことへの愚痴を聞くが、それが今更のように思い出されるのである。医師の世界のことはわからないが、妙に説得力と存在感に満ちた話で、惹き付けられた。

【「路上観察学」宇津木洋】
 筆者は、なんでも観察する癖があって、街のスーパーマーケットで見た人の立場に入り込む面白さ、自分を観察するコツ、孤独と他人への愛などについて、独自の経験が語られる。読んでいくと観察する境地がどんどん高められていることがわかり、大変興味深いものを感じた。

カテゴリー:淡路島文学

「草の壁」堀巖作
1981年9月号(No.217)より転載
法事で故郷へ戻った私は小学校の同級生、多恵子とおよそ30年ぶりに再会する。多恵子の足には大きな傷跡があり、小学2年生の時に私から付けられたものだと言うが、まったく記憶していない。混乱した私は当時の記憶を呼び起こそうとする。戦前の共同体における上下関係など人びとの生活が丁寧に描かれている。方言も効果的で心地よい。登場人物がそれぞれに誠実さを持って考え行動する様に惹かれた。特に傷を背負って生きてきた多恵子の生き方が爽やかで説得力がある。

カテゴリー:AMAZON

「獣神」第32号(埼玉県)

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1月16日付「文芸同志会通信」より転載。

同人誌「獣神」第32号(埼玉県)(1)

【小説「花の香り」澤田よし子】
 宏司は、幼い頃に継母であったが、優しくしてくれていた義母にしかられた記憶があって、花の匂いが嫌いになる。そして、子供の時に火遊びをして、それが原因で家が全焼してしまったことを思い起こす。家族は出火の原因をしらないままである。そして民子という女性と結婚する。現在と過去を語る手順が紛らわしいが、生活の様子をあれこれ描いて、一人の男の生活意識を描く。

【エッセイ「津軽の旅」野田悦基】
 作者は18歳の時に、太宰治に傾倒していた。それから50年、太宰の故郷で作品もある「津軽」の旅をする。スポーツウエアに登山靴、リュックというスタイルで、朝8時すぎに伊東駅を出て、午後3時に青森に着く。そして交通不便な小泊にある太宰記念館を訪ねる。
 現在、地域の名家であった太宰家は実質的には途絶え、縁戚が政治家になっていることや、太田治子さんは還暦を迎えていた。
 そのような情報を加えて、大変に魅力のあるエッセイである。語り手としての巧みさが、読者を惹きつける。

【エッセイ「カレンダーガール」剛子・ページ】
 英国には「ウィミンズ・インスティチュート」(WI)ダブリューアイという組織があるという。それは自発的な6800の地域社会組織をもち、20万500人のメンバーがいる。作者は東ケント支部に所属し、その活動ぶりを伝えている。多くが定年退職後の高齢者らしい。そのなかで、メンバーの50代半ばのひとが白血病で亡くなったことから、白血病の調査を始めたが資金がない。そこでメンバーの夫人たちが、ヌード写真を専門家に撮ってもらいカレンダーにした。上品に写したらしい。それが、大反響を呼び大いに売れた、とういう実話が紹介されている。たしか、海外ニュースで日本にも紹介されたエピソードである。
 当然なことながら、英国の風土がよく伝わってくる。昔は、外国人を描いて外国人らしくなく、外国を描いて外国らしくない小説などを、プロ作家でも書いていたが、最近はほとんどそのようなものは見られない。国際化が本物なってきた時代になってきたらしい。

カテゴリー:獣神

「南風」(福岡市)第24号

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「火遊び」二月田笙子
妻を亡くしひとり暮らしをしている洋治は年金暮らし。行きつけの店で早紀と知り合う。早紀には結婚相談所を通して知り合った男性がいて、その男性の店での振る舞いを見かねた洋治は早紀を庇う。何度かの遣り取りの後、男性は「彼女ははっきり譲ります」と言い店に現れなくなる。そうなってみると、早紀に対する気持ちは冷めてしまう。以前、不動産の売買をしていた洋治は、物件売買やインターネットオークションなどで競り勝つことに熱中していた自分に気づく。

「漬物石」渡邉弘子
73歳の萌子は娘も夫も亡くし、ケアハウスへの入所準備をしている。荷物の大半は処分したが、漬物石だけは川に戻してやりたいと思う。漬物石を通して、嫁いでからの活気に満ちた生活が語られる。住み込みの使用人を抱える婚家では大量の漬物を漬ける。慣れない萌子が少しずつ馴染んでいく様子が新鮮だ。別に家を建て親子3人の生活になっても、漬物は欠かせない存在だった。それは16歳で他界した娘の思い出でもある。知り合いのタクシーを頼み、川を遡って納得ゆく捨て場所に辿り着く。タクシー運転手の対応も細かく描かれていて、印象的だった。

「蘇生」山口道子
32歳、独身の葉子は子宮体癌で子宮を摘出してから体調もすぐれず、精神的にもまいっている。そんな或る日、偶然に見知らぬ男の子を2晩あずかることになる。2歳の男の子の描写が活き活きとしていて、葉子が心身共に回復してゆく様子が伝わってくる。

 (「南風

カテゴリー:南風

 同じ雑誌の同人の作品で恐縮ですがeuripidesさんに代理投稿をお願いしました。(文芸誌O・小島、(ーー;)  )

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 このところずっと、渡辺さんの小説には「連作・祈り」と明記されていたが、今回はそれがない。まさか編集の作業中にうっかり削除してしまったのではと思い、元原稿を開いてみたら、やはり無かった。無いけれども「連作・祈り」と明記してもよいくらいである。  冒頭の「わたし」の目質の話題から、人には二つの目があるという祖母の教訓に至る書き出しは、読者を確実に作品世界へ連れ込んでくれるし、なかなか端正な書き出しである。  私のようなぼんくらにはこういう霊能者の存在自体が信じられるものではないし、祖母が幼い頃から自分に特殊な感性があることを知って行く過程も信じられないのだが、結構ディテールを丁寧に書き込んでいるので、読み進めて行く途上では否定しようもなくリアルである。  神社で子供相撲を見ていた小男が実は落ち葉に埋もれたお地蔵様であったという、こういうディテールを作者はどこから探し、得て来たのか、実に納得させられてしまう。また祖母が執り行う神事、祖母とのからみでその都度登場する料理なども細部まできちんと書かれていることで、 やはり作品のリアリティを増している。文章を読む楽しみのようなものを感じました。  ありそうもないことをあるように書くにせよ、あったことをあったように書くにせよ、こういう風に細部をきちんと書くことでしかリアリティを獲得できないのだと納得しました。

 ひとつだけ、この作品で夫を簡単に死なせてしまう理由はどこにあったのだろうと思った。
 夫とのことは、夫が鬱病から回復し、妻と和解した段階で事は終了しているのであって、この作品では結末近くで夫が死ぬことで作品がさらにどうにかなるものでもないのである。きわめて蛇足な死であるような感じがした。

 「水の井戸」はインターネット上で読むことができます。
横書きHTML版   縦書きPDF版

カテゴリー:文芸誌O

「文芸同志会通信」http://bungei.cocolog-nifty.com/より転載。
(1)2009年1月8日
 本誌は、特集「日本が好きか」が組まれている。この意見を読んで、改めてどうのようにすれば、より住み良い日本になるか、もう一度考えていただきたい(赤羽文雄編集人)という企画。それぞれの実感が語られ、大変内容の濃いものになっている。
 このような企画をしたのには理由があるようだ。編集後記によると、会員が12名に減って、原稿が数本しか集まらないとある。また、人数が減ると会費や掲載料の負担が大きくなり、それがさらに原稿の集まりを悪くする。経済のデフレスパイラルのように、縮小均衡への悪循環が始まるのだ。近く会費や掲載料の見直しをするという。同じ問題は多くの同人誌に起きていることなのではないだろうか。
【「日本が好きなのだが...」赤羽文雄】
 勤勉、親切、義理人情などの国民性、豊かな自然など日本が好きな特長をあげて、不満なのは政治のリーダーシップの不在だとする。最近の日本の傾向は、あまり好きになれないようだ。
【「わたしの好きな日本」桂路石】
 いま80余年の人生をかえりみる。アメリカ、ヨーロッパ、ニュージーランドと世界を旅してきたが、それも、旅が終われば、やがてわが家へ帰れるという安堵感が心底にあるからこそ、見るもの聞くものが楽しいので、どこにも帰る場所(母国・祖国)がない、いわゆる根無し草ならば、楽しいどころか、いろいろ見学し、おいしい物を食べていても、絶えず不安につきまとわれ、旅が楽しいはずはない、とする。ただ、現代の日本が「暖衣飽食で礼節を知る」の精神と逆の方向に向かうのではないか、と危惧している。
【「私の好きな日本」高取清】
 30年ごろ前に、イギリスに居た時に、日本で2年間過ごした英国人に声をかけられ、日本人は大変素晴らしい国だ、と賞賛され厚い待遇を受けた記憶を語り、大変に日本を誇りに思った、とする。これからもそのような高い評価を受ける国にしていきたいという。
【「日本が好きか」青江由紀夫】
 函館に38年間暮らしたが、北海道にアイヌ問題があるものの、それほどの対立もなく、独立の運動もなく、紛争にならないところであるという。新興宗教としての大組織の創価学会もあるが、北海道でも東京でも幹部の人々は紳士的で友好的であるという。筆者の実家は広島で、浄土真宗西本願寺派・正満時の分家であるとする。ある程度、社会的平等が保たれ、格差は少ないほうではないかとし、年金、平和と防衛のためのしっかりした政策をとればなお良しとする。
【「私の好きな日本=鴨立沢=」衣川遊】
 筆者は、神奈川県湘南の大磯に住んでおり、そこに「こころなき身にもあはれは知られけり 鴨立つ沢の秋の夕暮れ」と詠んだ西行法師の住んだといわれる草庵「鴨立庵」があることを知る。こうした情緒豊かな地域のあるところ愛する気持を語る。
【「私は含みのある美しい日本語と桜の国で育まれた『おもてなし』の日本文化が好きだ」武田修一】
 まさにその通りのことが書かれてある。上野公園の花見に行ったところ外国人も交じって、平和な光景が繰り広げられ、日本の素晴らしさを実感したことを述べる。

【小説「赤い袋」衣川遊】
 草間の友人、小西は長い闘病の末に、しまい身を刻んでの治療を試みて亡くなる。草間はその間の小西の苦しみ、その家族の苦しみを思うと、自分の身に当てはめて夜眠れなくなる。そして医師である岡田に、いつでも、すぐ死ねる毒薬が欲しいと頼む。岡田はノイローゼだからそのようなことを言うと、相手にしない。しかし、草間はいつでも毒薬を持っていれば、安心するのだから、としつこく頼む。あまりに度重なる願いに、岡田は秘密の毒薬を渡してやる。
 その毒薬を母の形見の赤い袋に入れた草間は、それをいつ飲むべきか考え、毎日を死と向き合う日々を送る。考えに考えた末に、草間はその赤い袋を捨てる心に到達し、捨ててしまう。それから、岡田医師の渡した毒薬はただの風邪薬だったとが、読者に知らせる話。
 このように簡単な荒筋が示せるのは、短編として優れているからである。また、話の重点に草間が毒薬をもって、いろいろ思いめぐらすところにおいていて、まさに小説としてこだわって書くべきところが書かれ、余分なところは省略しており、ムダがない。その点では小説の形式を正統的に持った短編として、見本になるところがある。
「楔」同人会事務所=〒230-0063横浜市鶴見区鶴見2?1?3、鶴見大学内、前澤担当。

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